詩投稿欄

「詩投稿 第37期」入選作品紹介Topページに入選作を順次公開します。

嶋田隆之「窓とケヤキと」

屋根もベランダも重機で崩され
便器も玄関の扉も廃棄物トラックに放り込まれ
小さなアパートはなんにもなくなった
最後に油圧シャベルは
窓の外に立っていたケヤキを抜いた
根っこから掘り起こされたケヤキは
なんにもない地面に転がされた

そこには窓があった
いつもケヤキが覗き込んでいた窓があった
窓の中では
初めての日に若い妻が危なっかしくハンバーグを焼いた
寝つかない娘の横で若い父親が白い天井にため息をついた
でももう なんにもない
誕生日のたびに増えるおもちゃをしまった押入れもない
いつか手渡そうと夫婦で整理したアルバムを並べた棚もない
娘が撮ってくれた夫婦二人の写真を置いた下駄箱もない
本当になんにもない 

そこには窓ができるという
小さなマンションが建つという
窓からは
慣れぬ手つきで味噌を溶く男性が見えるかもしれない
真夜中の赤ん坊の泣き声に灯る明かりが見えるかもしれない
部屋を這い回る幼子を追いかけるスマホが見えるかも知れない
繰り返されるかもしれない
新しく始まるかもしれない
ケヤキがいなくても

そこには窓があった
窓を開ければすぐ前にケヤキの木があった
春には若緑の小さな葉っぱを揺らした
いっぱい揺らした
リビングの窓を額に、それは一枚の絵になった
カーテンを全開にして眺めた
そんなに開けたら外から丸見えやんか
そう言う妻も笑って隣に座り
窓の外を ケヤキを見た
今も見える気がする
そんな気がする

 

ゐで保名「釘」

壁に、釘が、一本。
錆びている。

これは、
誰かの、意志の、化石だ。
何かを、ここに、留めようとした、
遠い、昔の、熱の、残骸だ。

打ち込まれた時の、
壁の、痛みは、
もう、乾いている。

釘は、
壁と、一つになることで、
痛みから、解放されたのか。
それとも、
痛み、そのものに、なったのか。

時は、
この、釘を、避けて、流れる。
この、一点だけが、
永遠の、午後に、取り残されている。

もし、
この、釘を、抜いたなら。

壁は、
傷口から、
何を、流すのだろう。

血か。
砂か。
それとも、
ただ、溜め込んでいた、
膨大な、沈黙か。

俺は、
その、釘を、
ただ、見ている。

俺も、
誰かの、意志によって、
この、世界の、壁に、
打ち付けられた、
一本の、
錆びた、釘なのかもしれない。

 

緒方 水花里「廃品」

ホルモンはうちの臍の緒
放るもんっちいう意味やって
夕焼け血の中泳いで来る
ほおるもん、ほおるもんありませんか

マルチョウが一番やね。牛の小腸を裏返して
膜ん中アブラがギシギシ詰まっとる
餓鬼に似とるね
マーガリンばそんまま食いよる
母親がおった時はよーマルチョウ食えたんやけど
うちでは鍋が煮え もつは栄養満点やけん
食べり

母親はうちを捨てて別の男んとこ行った
うちはコロコロコミックを何度も何度も拾って帰った
そのたんびに父親に殴られた
デブ、ブタち竹刀ば振られた うちはマーガリンば食うた
愛とは与えるものならば
食卓には何もなかった 鍋も
少年漫画の中にも

父親から離れた街でゴミ捨ては夜やなくて朝やった
うちはマルチョウ1kg抱え夕焼け血の色走り抜けた 火ば点け
鍋ん中具ツラ愚面地獄ん中可愛く開く赤ん坊
父親ん指
詰まったアブラが白い花ごつ
人間マルチョウが一斉に煮えたぎる
食らう
父親をバラバラにして啜る
食らう
歯の間でプツプツと死ぬ 食らう
たらふくたらふく食うてから
うちはうちを裏返す
うちはうちを裏返す
口ん中から小腸と食道がそんまま出る アブラんギシギシ詰まって
うちはただん管
うちはただん内臓
内臓の中逆流して出て来る
マルチョウショウチョウレバーハツセンマイデブブタコロコロコミックうちんはらわたうちんはらわたうちんはらわた
うちん臍の緒まで到達する 小腸と食道と繋がってピンと張る
うちは一本の内臓
から反吐を吐く血反吐を吐く血も食べたもんと一緒なって出て来るトイレん中何もかんも吐く廃品回収の車が通る
たらふく持ち帰った給食の余りのパンもほおる
母親の産まれんかった腹違いの子もほおる
でもまだ足らん食らう食らう吐くうちは時間をほおる金をほおる
命ばほおる
マルチョウのマーガリンの父親の母親のうちんはらわた
うちはうちを食べるそれすらも吐き出しどんどん痩せてく涙を吐く体が動かん
うちはもうデブやない
うちはもつ、かれたわ

天神コアの屋上からほおったら
フッと
風になって
うちいっちゃん軽くなった
真下に見える血の車
ほおるもん、ほおるもん

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