第2期(2016年7~9月)

日本現代詩人会 詩投稿作品 第2期(2016年7〜9月)選評

【選考結果】

野村喜和夫選:

美薗ユウリ「不在を支配する」

八木獅虎「きみはかわいい」

樽井将太「すぢ不識」

村田麻衣子「Re:神様」

鎌田伸弘「分水界」

高貝弘也選:

針尾早世里「ぱらいそ」

北澤詩餅「コロ」

美薗ユウリ「不在を支配する」

上原梨花「飛翔」

出目金「無題」

堀之内有華「名前」

峯澤典子選:

櫻井周太「みんな流れてしまった」

白島真「雪豹」

八木獅虎「金肌」

横山黒鍵「虹」

投稿は237作品・135名。(男性71名、女性50名、無記名14名) 13名14作品。 (敬称略・順不同)


日本現代詩人会HP詩投稿欄 第2期入選作2016.7-9月

美薗ユウリ

不在を支配する

 

1 彼の住居は線路沿いの低層マンションの一室である。

2 建物の場所、および居室の場所の詳細については記述しない。

3 団地ではない。建物はその一棟だけだ。周囲を田と畑に囲まれている。

4 地理の相対としての建物の位置は、僕にその孤立を印象として与えた。

5 「僕」とは通過する列車の車窓からそこを観察する乗客の、その任意の一人としての「僕」であったと読み手、つまりあなたは考えてもよい。

6 建物の前は長方形の駐車場になっており、今日この時間は七割ほどが車で埋められている。

7 その八割以上が軽自動車であった。

8 さらにその五割ほどは白色である。

9 僕は「彼」と記述したが、性別を指定しようとは考えていない。女性か?男性か?僕は知らない。対象の性別は読み手に委ねてしまいたい。

10 読み手としてのあなたが、どちらか一方の性を選択すれば、たちどころにそれが真実である。

11 当然、より複雑な性の設定も可能であるし、問いかけを問いかけのまま留保して読み進めてもよい。

12 彼が独居している3LDKのどの部屋にも今は人がいない。ダイニングキッチンのテーブルの上に、三分間計測の砂時計が置いてある。

13 二週間ほど前に、彼は駐車場に並ぶ白い軽自動車の中の一台に乗り近所のホームセンターに簡易浄水器を買いに行った。その時目に留めて買ったものだ。

14 安かった。

15 即席めんの茹で時間を見るのに丁度いい。

16 どことなくおしゃれな気がした。

17 おおよそこの三つの思いつきでショッピングカートへ入れた。だから実在する砂時計の存在感に比べ、彼の意識の中で存在の意味は極めて希薄である。

18 この詩の記述で、作者、つまり僕に通底している感情は悲しみである。

19 重ねて言いたい。悲しみがこの作品を書いている動機だ。

20 砂時計の横、そこにはものがいくつか積み上げられている。

21 一番下に古い朝刊。正確に畳めていない。端が揃わず、隅が折れている。皺もついている。新聞社名と日付は記述しない。

22 その上に団扇。コカコーラの写真が刷り込まれているのが分かる。販促グッズだ。

23 その上にセブンイレブンのポリ袋。袋は皺だらけになって潰れている。

24 その上にタオル。百合の花のような柄が青地に白の連続パターンで表されている。これも正確に端を合わせては畳まれていない。

25 その上に丸美屋ふりかけの袋。上部のチャックが閉じきれていない。動かされると残った中身が半分以上こぼれてしまいそうだ。

26 その上にメモ用紙が置いてある。

27 メモ用紙には、これを読むあなたの名前が書いてある。

28 横書きで書いてある。

29 あなたの名前の下には、「二千十六年八月十三日に死亡予定」と書かれている。

30 この部分は縦書きで書かれている。記述の全体はT字形になる。

31 「二千十六年八月十三日」は過ぎ去った。この記述はもはや間違いとなっている。

32 既に間違ってしまった予言に何の意味があるのか。

33 予言は間違っていないが、記述が間違っている可能性もある。

34 数字の誤記は珍しいことではない。

35 そういう憶測とは無関係に窓の外は夕焼けで赤い。真っ赤。

36 そういう憶測とは無関係にあなたは結局のところ死ぬ。

37 僕もだ。

38 死について考えるとき、僕は感傷的になる。あなたもだ。

39 だが彼は死なない。僕と読み手であるあなたとの間で、言語を仲立ちに成立した虚構だからだ。

40 そもそも生まれていないものは死なない。そうではないか?

41 しかも彼は不在である。どこにもいない。テーブルの上に暗い日が射し入り、雑多な影が伸びてくる。

42 中でもひときわ長い影は、グラスにさされたビニール製のストローのもののようだ。

43 半透明であるから、輪郭もおぼつかない。

44 飲み残してだいぶ経つコーラが残ったままのグラス。コーラの銘柄は特定できない。

45 そろそろあなたは「18」と「19」の記述が嘘であると気付きかけている。そもそもこの世に「悲しみ」などというものは一切無い。

46 どこからか潮の匂いがしてきている。海は遠い。不思議だ。

47 DKのシンクの横に彼が置いた10インチのプライベートTVがある。電源は落ちている。何も写っていない。

48 あなたと僕は彼にとっては受信されない電波である。

49 われわれは彼の意識の外から、彼の心身のみならず存在の根幹をあらかじめ簒奪している。

50 ただしわれわれに実体はない。実体を保証するべき彼は、永遠に不在である。悲しい。

八木獅虎

きみはかわいい

 

海面、上昇し、生息圏が、じわじわと

水に、おびやかされていくように、ひたひたと

迫る、未だ、聞いたことのない

戦前の足音。

つい、こんな

遠回しな言い回しをしてしまう

きみがかわいい。

言葉や火を、発したことよりも

無花果の葉で、

陰部を隠したことのほうが偉大だ、という

きみはかわいいし

大事なものを、守るつもりだったなら

はじめからもっと、強固なもので守ればいい

っていう、きみは、やっぱりかわいい。

まず、着るものをさがしなさい、と

プログラミングした、きみはかわいいし

生身のきみを、ぶっとばしてでも

きみに合う洋服を奪い取る

未来から来た、きみ型サイボーグもかわいい。

インフィールドフライとか

オフサイドトラップとか、そんなルールが

できる前には、あったであろう、きみたちの

「おまえずっけーよ」「わざとじゃねーよ」

という、やりとりがかわいい。

きのうみた、ドラゴンの

口から火をはくしくみについて、考察してたら

うっかり、深酒してしまった、きみ。

冬眠中に、餓死寸前までやせほそる熊を

羨ましがる、きみ。

椋鳥の群れが、どこで死んでいるのかを

知りたくなって旅立った、きみ。

どのきみもかわいい。

空よ、万能の大空よ

制空権をゆずらぬどころか

陸海まで、すべてを統べる、青き独裁者よ

きみでさえ、この惑星からはでられない

そんなことも知らずに、まわっているきみが

かわいいと、いちいち大袈裟にいうきみも

かわいい。

ことしの夏も、鳴き終えたきみが

飴色の脱け殻へと戻っていく、その

うしろ姿がかわいいと

なんの喩えか、ぜんぜんわからなくても

その、わからなさ、が、かわいい。

きみの、あずかりしらぬところで

歩きはじめちゃったきみが、あっというまに

歩けることを忘れてしまっていても

しょうがない、しょうがない

しょうがないでかたづけてしまうきみが

かわいい。

かわいいはつよい

うつくしいより、きみに近いぶんだけ

かわいいはつよい。

だから、きみはかわいい。

樽井将太

すぢ不識 

 

果ての肉衣握り

すぢすぢ

浮き出ているね

すぢまねる

、いるね、

、秒めくりの、

結わえたビート肉の、

、のビート肉の、

ごくあさいぶぶんを撫でられて

逆噴射しているね、

 

消失点へと凪いだ眼があゆみ

そこに浮かぶのは秒めくりの、

、すぢ、

衣衣かぴかぴ、

 

すぢまねる

、結わえたビート肉の、

すぢすぢ

草臥れて

すぢがととのように

でろんろと、

すぢがととのようにでろん、と

節と筋が重なり

この凪いだ眼とは違う消失点へと

つつつつつ

 が、

 小さくなると、

   あるいは

ししししし

 が、

   小さくなると、

孔から、

 あるいは

 が

、のような、

逆白光が

躍動する描線とともに

迸り、

ほらほら

ね、

すぢすぢ

      いくいく

ね、

村田麻衣子

Re:神様

 

と お く からだのもっとおくに おいやってい

たものが こっちに、戻されたようだね。

 

 とおくのからだ わたしのほうに きてよ

 

それが きみのからだのやわらかな太腿のあたりだった

雨。

たよりにならぬ杖として わたしは ははの骨が 軋むのを聴き

足を取られながら歩いた ぬかるみのある路上に

雨。まだ降り足りないんだって 解りあえぬうちに

荒々しい海となり路面とのさかいめを失い

 

押し寄せる波みたいに 雨のなかのわたしは頼りなく

浚われた足を。手を。さらに切り開かれた血管の隅々

をならしてできたわたしを護るビニルの傘のなか、雨

のなかの骨組みがギシギシと このおぼつかないくら

い窮屈な仕組みを 渡りゆく 嵐になり、

 

すべてをかえすことができなくなった

押し寄せる波の中には、岸に運ばれた名前の書い

てあるライフカードやあの日の買い物の照明のレ

シートがぐしゃぐしゃになっていたんだ 

わたしの腕も揺れたああどうして 今日が、雨なのよと

嘆いた 似たような年恰好のひとなら誰でも神様になれ

るような気がした 神様ごっこなんてやめて 

 

それが きみだ。こころをひどく痛めて 右腕から

先が見えない それは

きみは どうやら女の子なのに兵隊の生まれ変わりだからだ

巻き戻されたってそんなに嬉しくないわ、

混線したカセットテープのぐしゃぐしゃのビニルには

残酷な映像も光景ももういらないくらい映ってい

て もう、過去とわたしは関係なくて未来とわた

しも関係ないって 抱えた矛盾を、果たされない

約束としてただ 今

わたしは、偽りのない日々を過ごしている

腕の位置がすこししっくりとこない者たちのなか

で生きてくのって なんだか おかしくなりそうな

 

わたしを眠らす呪文がわからないままだ 

ー眠りにつけないでいじけていたら 見えずにいた

街の色彩が鎮静みたいにうっとりとさせる意識の中

子供の足取りのようにたどたどしく

ゆっくりと、

朝焼けに紛れて消えてしまった

 

 

神様じゃないよ神様のこどもたちのはなし

をしているんだ こどもの形をしている

産声を上げなかった子たちの姿は モザイクの

粗い目のひとつひとつとなるからねって語りかけ

 

存在している?ええわたしもあなたも

いとおしいあなたが 戦争に行くなんて悲劇だわ

そういいながら 目を醒ました

 

陽光に 焦げ付いてしまう高いところへ 

向かう アスファルトの上でからからに乾いて みず

けを奪われ 

おいしいと水を飲むようになった毎日に 死なんて

考えられなかった>>

水気をさらに 奪われ 浚われる運命となる原因

死んで しまうかもしれない  死んでしまうという

ことは、そのどちらをもえらべたのに

陽光が からだにあたる

 

ああまだ生きていけると感じた

 

廃棄するか、産まれるか二つの事象を繰り返す

季節というのはその紡がれていく織物のなかに

解れたり、免れたりするその秋の始まりの金木

犀みたいに 転がり続け 擦れた記憶をまた

生理的に 作り出してしまう

幼子の形をして 焼け付く大地に 記憶を残すように

鎌田伸弘

分水界

 

その公園の ほぼ真んなかに 

水が出なくなって久しい 噴水があった

水は 当然涸れ 乾あがっていて

一滴も 残っていなかった

まわりには ぐるりと

大理石が 段々に めぐらせてあり

おおくの 老人が

まいにち やってきては 坐って 休んでいた

噴水と 老人たちの あいだには

境い目は ない といってよかった なぜなら

老人たちの からだのなかの水分は

一秒ごとに 急速ないきおいで うしなわれていったから

限りなく 0.00000・・・%に

 

こわれた噴水 老木 蟬のこえ

若者の姿はみえない・・・

 

ひと組の 老夫婦が その公園に やってきた

かれらもまい朝 散歩のとちゅうで 立ち寄るのだった

妻のほうが いくらか若くみえる

彼女は 惜しまれつつ引退した 往年の名女優

なぜ 引退したのかは 誰にもわからなかった

いまは 映画監督の夫と 散歩をして 公園に寄り

まいにちを 過ごしている

夫ももう 映画は 撮らない 妻が銀幕に 戻らぬかぎり

ただ カメラのかわりか 胸ポケットに 万年筆が一本 ささっている のみだ

 

毀れた噴水 切り株に渦巻く年輪 空蝉

妻がそっと手を伸ばす・・・

 

その瞬間

夫の胸ポケットの万年筆がひとりでに

インクを噴射して

ワイシャツを蒼く染めた

よーい、スタート!

弾かれたように映画監督が叫ぶと

にわかに女優の背後で噴水が

水を噴出しはじめた

いきおいよく

とめどもなく

針尾早世里

ぱらいそ

 

万物は汝より産まれし

産ま・産も/海/産む/産む/産め/海よ!

その五段にも渡る密接の関わり合いの苦々しき表情に

私は死ぬか海から離れた街へ越すことを強要された。

あるいは新宿あるいはぱらいそ、河原で石を積むことと並列の

ぱらいそというリキュールを知ったのは、

アルコール中毒の女の子の、池袋にある狭いアパートで

午後二時から二人、ベッドの中でチョコレートを齧りながら

舌ででろでろに溶けながら

山手線の丸の中に呼吸を見出だした

それは排気ガスと不味い煙草の副流煙にすぎないと

きっと 言う

海は清廉だと

きっと きっっと きっっっと

私の産まれた街は海とほぼ同一の青灰色

足裏には朽ちかけた貝の破片の腐りかけた苔

潮のにおいが 強く 強く つよぉく

特に雨の日は、空からあなたの身体の一部たる

水 が降って、それはまるで血みたいに

におって におって に おって

誰の血か、という愚鈍な問いを発するのは

いつでも出産未経験の、子どもおとな、あるいはどちらでもない人

だと 母は

全ての母たちに報いることの出来なさを

海も 産みの母も 産んだことのある母たちも知らないで!

そうして、愚鈍な私たちのことを未熟と

あなたたちは、そう海は

海のない都会の、夏に落ちる影のべたつきを、

そう 意識していなかった

意識することを未熟だと、熟せば忘れてしまうと

そう 言ったと信じてはいる

そう でないと本当は知っているのですが

そう でなければ

私は母たちの前ですぐさま死ぬか、彼女たちに報いるか

そう でなければ なければ ければ ば ば

報ゆることの出来なさを愛すことでしか息の出来ない私は

産まれたときからあなたの身体は

あなたの子のものだと 言われて きて

ぱらいそは真っ青な

スペインの海の色で、幼児用の風邪薬の味に似て

アルコール中毒の女の子は泣いた。

瀬戸内の海に面した町の出身で、

やっぱね、においがね、

血のにおいがね、月の満ち欠けの度にね して

雨が降ると、ぜんぜんぜんぜん

スペインなんて行ったことないんだけど、

手首を切ったときとおんなじだ、って

私に剃刀を渡したから ぱらいそ

私はアスファルトのべたつきになりたかったから ぱらいそ

そんなのって そんな そっか

私のさみしさと あなたのさみしさの 形状の違いが

ぱらいそ

いつか素敵なアスファルトを繋ぐコールタールになりたいと

ぱらいそ

には行きたくないと 私はぱらい、その壜を、道路に叩き割って

青色がね、海の色が降って、彼女の血のにおいが渦巻いて、

で、も全部アスファルトが吸って、べたついて、

産まれません死にません海にもぱらいそにもなりません

北澤詩餅

コロ

 

ぽちゃんと沈む 石ころのコロ

魚たちには 珍しいコロ

コロの家族は ヘマタイト族

銀色の顔 銀色の声

 

空を飛びたい 夢を持つコロ

足を滑らせ 川に落ちたが

流れもせずに 泳げもせずに

ただただ泣いて 魚も困る

 

そこで数年 動かないコロ

いつからだろう 魚も減った

そしてある日に 子供が拾う

そして何故だか ポッケにころり

 

見たことのない 子供部屋には

ガラクタだらけ 石もたくさん

コロは磨かれ 飾られている

ハンカチ畳み 座布団のよう

 

コロは嬉しく 少し寂しい

空は少しは 近くなったか

時たま見える 鳥に憧れ

コロは悲しく 少し寂しい

 

子供が出かけ 窓には小鳥

コロは小鳥に 語りかけたが

小鳥はすぐに 飛び去ってゆく

コロは寂しく 少し泣き虫

 

しかし翌日 小鳥がちらり

コロを咥えて 仲間に入れる

名残惜しいが お別れの時

子供は笑い コロに手を振る

 

これから海や 山を越えては

空から空へ 雲から雲へ

 

どこからどこへ 当てもなくゆく

夢の中での コロは自由だ

上原梨花

飛翔

 

君は泣いていた

死は美しくなんてない

その一行からはじめたい

あの子どこで拾ってきたの

しーっ声が大きいよ

能登はいつでも冬だった

 

ぽこぽこぽこ

ぽこぽこぽこ

岩に叩きつけられた波が

真っ赤な泡となって

海岸を覆い尽くす

村人は波の花と呼んでいた

喰えば臓器が泡まみれになる

 

父さんの顔の布が

驚くほど白かったのを覚えている

なぜ食べてしまったのだろうか

アオサギが枕元に止まっていた

母さんは不吉だと顔を背けた

香炉、燭台、鈴と水

あの人、菊が好きだったわ

 

私は、大人になりたくないと強く思った

 

集落のキリコ祭りに

男たちが帰ってくるのは

何かの儀式に似ている

キリコ灯籠が天を焼いた

荒々しく運ばれて川に投げられてしまった

 

皆の幸せのために火に焼かれた蠍があるなら

私もそうしてほしい

 

タバコの匂いなんか嫌いだったのに

めまいがするほど好ましい、

星をくるりと見渡すと

耳の奥で百合が咲く

 

想像してみなさい

私はキューバから来た絵描き

どこにでも行けるし孔雀の羽を着物にできる

 

生まれて一番美しいものを見たから

ある晩ひっそりと北陸の町を出た

出目金

無題

 

昼下がり

白く明るい病室で

ツツジのいろをくちびるに

 

祖母はそのまま め をとじた

わたしはツツジを咀嚼する

堀之内有華

名前

 

あけられなかった空が覆うように屋根の上

むすんでひらいてを繰り返し 星がみるみるちいさくなって

いくつだったか答えられずに

あのこはまだ両手が上手につかえない

 

遠いはずのコンペイトウを眺めながら 幼子 歌っている

あける空に囲まれたひとつ屋根の下

きょうだいはいますか

あと二分で炊き上がるごはん(楽しみ おいしいこと

 

むすぶ

 

遺言のようにたたずむ

草が足を突くようだ

ここから一滴のこらず流して

小鳥がさえずる

雲がおよぐ

生死はわけられない

それでも

手書を片手にちらちらと確認しながら

 

ひらく

 

あの場所に座すものはなに

かなかながなく

からだじゅうで表す

よろこび

 

森の軋音を聞くとおもいだす

どうしてもの宇宙を

星を追うとわすれる

あけない空 それはみらいの静けさ 僅かなる一生の期待

 

ぴょんぴょん 跳ねて

振り返ったその顔が

あまりにもその顔であり 泣いては笑った 信号機の明滅

 

(うつくしいね

(答えられないことがある

(あるから知りたくなる

 

きみのことはきかないほうがずっと愛していける

名前だけ

呼びたい

おしえて

櫻井周太

みんな流れてしまった

 

雨の日は好きだ

にんげんがみんな流れていって

尖った息だけが残る

その張りつめた感じが好きだ

 

だれも座っていないベンチが好きだ

そこに腰掛けて

尻に水がすっと入ってくるのが好きだ

一緒になれたという気がする

もう離れないのだとおもう

 

雨が透かしたレースになって

遠い林道がにじみ

すべてが平らに見えるのが好きだ

自分も画家の絵の

たましいのひとつになれる

 

雨は特別だとわれわれは考える

だとすればもし

世界の基本形が雨だったなら

みんな反転して生きるのだろうか

それともここみたいに

永久に流れたまま

消えていってしまうのだろうか?

 

閉めたままの蛇口から

しずくが滴っていくのが好きだ

外からやってきたものと

分かち合えたという気がする

 

流れていくものたちが

好きだ

排水溝が渦を巻いているのを

息を止めて見ている

 

過ぎていくものに飲み込まれて

わたしもわたしの一部分に

なりたい

白島真

雪豹

 

積乱雲を追って

暗い翳つくる地平を疾走するものがあった

川の古い祠の霊気を吸って

星辰のゆらぎを皮膚に烙印するものがあった

 

     (立ち枯れた草木月下のふかい冷え込みのなか

      雪豹の仔は生まれた)

 

机の上の青白い囲みのなかに

閉じ込められた雪豹をみる

書きかけた詩篇のなかで

原野に放たれ

都市の肉を引き裂くおまえを見たかった

力強く疾走し

苦痛と不和を削ぎ殺してしまうおまえを見たかった

 

冬ごもりの温みをあらかじめ備え

叫びの瘡蓋を撫で

蘇生できないわたしを叱咤するような

野生の眼をもった獣のおまえ

 

滑りやすい雪氷の崖を下るため

不自然なほど太い尻尾は

みごとな均衡をとる

 

知っていたか

獲物を狩るため

岩になりすまし擬態する習性があることを

文明という巨石に抗うこともできず

擬態のように身を潜めたのは わたしではなかったか

 

本当だろうか

ふたたび みたび積乱雲を追って

歴史のあらい息づかいに刃向かうように

おまえが生きて咆哮したことは

 

本当だろうか

霊気の斑紋に身をつつみ

恩寵の毛深い肉球の裡から

鋭い弾劾の爪を突き立てたことは

 

アルタイのとおい雪渓を

さむいけものとなって指でなぞる

 

わたしの手の甲の染みが

青白い時を刻む薄明りのなかで

広がっていく

けっしておまえの斑紋のように

美しくはなく

八木獅虎

金肌

 

できるかぎり鋭利なもので

どうにかしてひっかいてしまわなければ

おさまりそうにない、かゆみ

 

位置を特定できずにかじれば

周辺の皮膚がはげ

隔てているものがけずれていく

 

ほんとうに

皮一枚でつながっているのは

筋骨と社会です

通貨の価値と値段がつりあわないのは

いわゆるそういうことでしょうか、ひとも

 

財布のなかにあるはずのものがなくて

しかたなしに籠の中身をひとつひとつ

もとの位置に戻していく

 

陳列棚のあいだで

幼子が

自分のからだを追うかのようにママを追う

陳列棚のあいだで

老夫婦が

ウミガメの時間軸をたどっている

 

俺にだって

一生をかけてとくとくと

しみこませなければならないものがあり

薄まらぬように

つぎたしつぎたし、つなげているものがある

だからあらゆる事態をさける

 

 

万が一にも降りそうもない空をバックに

歩道橋をかけていく

まっくろに日焼けした学生たち

 

あんなにも真っ青な空を

一瞬たりとも見上げず

立ち止まらず

見下ろさず

まっすぐ、ただまっすぐとかけてゆく

 

きのう

 

かゆいところはありますか?ときかれ

あったけれどいわずにいたのは

清潔だとはいわないが

不潔だともおもっていないからだ

 

チリチリとけずれて

透きとおるほどうすくなった肌の奥に

鋭利な刀身がギラリとみえる

 

なにひとつ

断てるはずもないというのに

横山黒鍵

 

雨が降っているのですね、遠くから息遣いが聞こえるように、水玉の傘を内側から覗くと暗がりの中に浮かぶ、表情はほどけてしまいましたか、だからいません。どこにも

探した手の冷たさに沈む白です、あんなにも日焼けしたというのに、もうほどけてしまいました、柔らかな筋肉の一本一本が弾むようで、その白は流れて脈を打つのです、時間を刻むようにキャベツを刻むようにまるで遠のいていくかのように

弾むように、雨だれ

口へ運んだ、むずがるように緑色の虫が服を這います、そのまま毟られて清冽な水にさらされて、言葉を失うのでした、ただのぬくもりの塊として、胸には重いのです、だから吐き出すのです、蛹になる前に溺れてしまいます、溺れればいい、指でそっとすくい上げきちんと潰す、緑は染めますそっとその色になって、そとは雨が降っているのですね

無心に包丁を上下し、いっていの音階でしめすひかり

玄関の前に残された足跡にピンを刺して保存します、この瓶のそこには空が丸く映り込み、それはとても鈍い静脈の透ける青、ピンク色のハンカチが滲んで汚れて、ローズマリーに今年も花が咲きました、小さな小さなむらさきの痣、匂いを消すための効果は擦り込まれた塩とおなじく、厄介なものです、焼きあがったら取り除きたいのですが、

父の黒い手が馬鈴薯を剥きます

チャイムが鳴る、不意の着信音とともに、招かれない音曲の彩が、鋏で手紙の封を切る

白紙であればいいのに、手を振った面影はやがて傘の内側に降る雨に滲んでいくのですね、乾いて灰色に変わります、晴れることないそとのように、虹はかかりますか、

そこへ


【選評】

野村喜和夫

美薗ユウリ「不在を支配する」

八木獅虎「きみはかわいい」

樽井将太「すぢ不識」

村田麻衣子「Re:神様」

鎌田伸弘「分水界」

堀之内有華さんの「夏の便り」横山黒鍵さんの「読む」は、前回の選評で述べたのと同じ理由、つまり堀之内さんも黒川さんももう投稿時代は通過した詩人たちだろうという評者の勝手な理由によって除外しました。あしからず、です。おふたりの他処でのご活躍を期待しつつ、入選作は以下の5篇としました。なお配列は受付順で、作品の優劣とは関係ありません。

御薗ユウリさんの「不在を支配する」。これを詩と呼べるかどうか、ぎりぎりのところでおそらくは奮闘しているのであろう挑発的な作品です。徹底した事物主義に加えて、読者を無理矢理作品の閾に招く企み。うるさいほどなメタレベルの導入は既視感なきにしもあらずですが、表向き抒情を排しながら、否定神学的にどこかで別様の抒情が書き込まれているのでは──というような、さらなる企みの気配があり、見逃せません。

八木獅虎さんの「きみはかわいい」。ひところ、何に対しても「かわいい」を連発する女子が氾濫しましたが、それを逆手に取ったような「かわいい」の定義のとめどない流出拡大に、エデンの園以来の世界の事象を絡ませて、一個の壮大なアイロニー創出の装置たらんとしているのでしょうか、この自在な言葉の運びは。タイトルにだまされてしまう読者もいるだろうが、と評者は、何はともあれ呆れ返りました。

樽井将太さんの「すぢ不識」。樽井作品は前回につづいての入選ですが、こういう作品を評者は偏愛します。なぜといって、シニフィエとしての肉の生動と、シニフィアンとしての言葉の肉感が絡みに絡んで、全体として、前作より一段とすてきなわけのわからなさ=非意味を醸し出しています。前回の評言をそのまま使えば、「おぞましくも蠱惑的な何か」の表出に向かってすすむこの詩学が、さらなる成長を遂げますように。

村田麻衣子さんの「Re:神様」。やや饒舌というか冗長というか、言葉が多すぎるきらいはありますが、何かを、わたしと他者とのあいだの何かを、身体のイメージをたぐりつつさぐってゆく手つきがとても切実に感じられて、なかなかの作品だと思いました。「からだ」とは、そこでは「わたし」も他者となるほかない未知のトポスなのだということが、なんとなく、つまりもどかしさも含めて、まるごと伝わってくるような。

鎌田伸弘さんの「分水界」。村田作品とは打って変わって明快な言葉運びですが、こういう作品も入選作のなかにあったほうがいいと判断しました。老映画監督と往年の名女優でもあったその妻をめぐる物語。それ自体映画のような構成とイメージで、一気に幻想的場面へと読者を誘う作者の手際は、それと気づかせないほどに鮮やかです。小石ばかりの不毛の川原に、蝶の出現を機にさらさらと水が流れはじめる中原中也のあの「ひとつのメルヘン」を思い出しました。 ほかに選外佳作として、以下の作品を挙げておきます。葉山美玖さんの「揺れ、(る)」、井戸川射子さんの「読めている?」、桜井周太さんの「みんな流れてしまった」、佐野豊さんの「内緒が大事」。


高貝弘也

針尾早世里「ぱらいそ」

北澤詩餅「コロ」

美薗ユウリ「不在を支配する」

上原梨花「飛翔」

出目金「無題」

堀之内有華「名前」

 質的にもボリュウム的にも、この三ヶ月で上回っていると言えると思う。前回注目した横山黒鍵や村田麻衣子も、おもしろい作品を続けて書いているが、今回は次の六人を挙げてみたい。

 

 針尾早世里「ぱらいそ」。荒削りだが言葉が力強く、並々ならぬものを感じさせる一篇。このときにしか書けないものを正直に発していると思う。「いつか素敵なアスファルトを繋ぐコールタールになりたいと」という一行は、どうだろう? 石油起源のアスファルトと、石炭起源のコールタール。どちらも遠い古代に繋がっている。天国の意味を持つ「ぱらいそ」というリキュールの壜を、道路に叩き割って、アルコールをアスファルトが全部吸う、という。なんかせつなくて、涙が出てくる。

 北澤詩餅「コロ」。童謡味のある佳品。ヘマタイトという鉄分の多い結晶の、コロという名前の石の物語。無駄な描写がなく、完成度はとても高いと思う。最後の二行「どこからどこへ 当てもなくゆく/夢の中での コロは自由だ」は、軽みとともに、悲しみも漂う。

 美薗ユウリ「不在を支配する」。散文調の叙述が番号を振られて、たんたんと説明書のように50まで羅列されていくが、飽きさせず引き込んでいくのは見事な才能といえよう。不気味な静かさが光る一篇。

 上原梨花「飛翔」。出だしの一連から、すごい! 「君は泣いていた/死は美しくなんてない/その一行からはじめたい/あの子どこで拾ってきたの/しーっ声が大きいよ/能登はいつでも冬だった」。岩に叩きつけられ真っ赤な泡となって海岸を覆い尽くす波の花を、喰うと臓器が泡まみれになるといった、民間伝承のような記述が続き新鮮な感動を呼ぶが、最終連も、うならせる。「生まれて一番美しいものを見たから/ある晩ひっそりと北陸の町を出た」。

 出目金「無題」。全く無駄のない三行と二行の連で構成されている、驚きの詩篇。全行引用してみよう。「昼下がり/白く明るい病室で/ツツジのいろをくちびるに//祖母はそのまま  め  をとじた/わたしはツツジを咀嚼する」。すこしの倒錯味が魅力的だ。ツツジ色の祖母の唇を咀嚼するという。それも、昼下がり。「白く明るい」という形容が、人の死を暗いものに感じさせず、素敵だ。

 堀之内有華「名前」。むすんでひらいて…を繰り返している、幼子。なにかの歌を歌っている、幼子。けれど、まだ上手に両手が使えない。でも、あと二分で炊き上がるごはんを楽しみにしているのだから、そんなに赤ちゃんというわけでもないのだろう。あまりきみのことは知らないほうがいい、そのほうが愛していられるから。だけど、名前は知りたい。きみの名前を呼びたい。「名前」は、普遍的なテーマだ。

 

 他に名前を挙げるとするなら、ナカジマジュン、石村利勝がいる。続けて、書いてほしいと願う。


峯澤典子

櫻井周太「みんな流れてしまった」

白島真「雪豹」

八木獅虎「金肌」

横山黒鍵「虹」

 まだ二期目の投稿欄だが、前回とは異なる書き方を試みたり、独自のテーマをより深めたりと、投稿するひとそれぞれの工夫や熱意が伝わってくる作品が多かった。今回は、そのなかでも、丁寧な言葉選びや無駄のない構成、柔軟な発想などが際立つ作品を入選とした。

 

櫻井周太さんの「みんな流れてしまった」。 雨が流れてゆくさまざまなかたちを、身体の感覚を交えながらテンポよく描いている。日常の手もとと遠くを行き来するまなざしの広がりのおかげで、「~が好きだ」というリフレインが新鮮な囁きとして聞こえてくる。見つめ、触れる。それでも解けない問いを問いとして引き受ける身体の重さと軽さが、素直な手触りとして伝わってくる、みずみずしい一篇。

 

白島真さんの「雪豹」。 「雪豹」を単なる美しいファンタジーとして終わりにするのではなく、野生の若々しい生命力と、語り手自身の老いのコントラストを最後に置くことによって、この詩は現実のなかの悲痛な語りとして胸に残る。無駄のない修辞や、迷いのない展開と語り口から、力のある書き手だと思われた。

 

八木獅虎さんの「金肌」。 肌の奥の「かゆみ」の凝視から始まり、「通貨の価値と値段」への疑問や「ウミガメの時間軸をたどっている老夫婦」や「歩道橋をかけていくまっくろに日焼けした学生たち」にまで連想は広がってゆく。さまざまな他者についての不可解な連想のあとに再び記述される「かゆみ」は、より不気味な存在として読み手に迫ってくる。解けない身体の謎を、他人のように離れて眺める視線の哀しみと可笑しさ。

 

横山黒鍵さんの「虹」。 「傘の内側に降る雨に滲んでいく」ある面影をめぐる、長めのモノローグが退屈にならないのは、描かれる対象の輪郭が結ばれる前に優しく壊れては、雨のイメージとともにまた浮かびあがる、その描写の集中と拡散のバランスが絶妙だからだろう。いくつもの色をのせて流れる言葉の、甘美なリズムも魅力だ。

 

 また、今回は選外としたが、堀之内有華さん、吉田友信さん、上原梨花さんの作品のみずみずしさ、のびやかさにも惹かれた。三人とも二十代とのことだが、彼らの作品は、ひとりよがりの内面の呟きで終わってはおらず、それぞれに、詩の主体を取り巻く外の世界や他者の存在を(例えば上原梨花さんの場合は、ある土地の鮮烈なイメージを)、いきいきと取り込みながら、表現の領域を広げようとしているのが感じられた。今後、こうした若い世代の方々が、どんな詩を書き続けてゆくのか注目したい。

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