詩投稿欄

詩投稿作品 第10期(2018年7-9月)入選作発表!!

日本現代詩人会 詩投稿作品 第10期(2018年7-9月)
厳正なる選考の結果、入選作は以下のように決定致しました。

 

【選考結果】
金井雄二選:
【入選】
鎌田尚美「声」
【佳作】
二条冬枷「夜空を飲む」
宮永 蕗「古びた風」
清見苳子「8.21 風に」

 

中島悦子選
【入選】
結城 涼「ライター」
【佳作】
大石瑶子「大磯」
比嘉康慨「モンゴロメダ」
香椎有理「故郷よ」

作品数308 投稿者208


 

声――鎌田尚美

 

読み終えた川端康成の『雪国』を小判型ビニールバッグに入れ宇都宮線に乗った
持ち手の穴に手首を入れるときつく親指以外の四本を入れたり二本指で持ったりして駒子の重さを量っていた
車窓から夕陽が見えると主人公の島村が葉子を認めた時刻は今くらいだろうかと思ったりした
指が覚えている女と眼にともし火をつけていた女の入った袋を振り子のように大きく揺らし小さく揺らし指の腹にかかる感触を楽しんでいた
大宮駅で降りると強い風が吹いてきてビニールのバッグはかさかさと音をたてた
左の人差し指いっぽんに提げたバッグを胸の辺りまで高く持ち上げ
ことさらに風に当てるとポリエチレンフィルムの内側で震え
駒子は帰らないでと云い、
葉子は連れて行って、
とわたしに縋ってきた
自ら進んで島村に身を投げた駒子、いつか気が狂れるとされる葉子、
がわたしは急に憐れになって
弄びすぎたと知り人差し指をとおしてわたしは島村じゃないよと語りかけバッグを後ろ手に持ち強風からよけてやろうとしたとき

おんなを少しお返しください、と声がした

9番線のプラット・フォウムで聞こえたその声は駒子のものでも葉子のものでもなかった

ライター――結城 涼

 

もしもライターをつけて 
その炎が消えると同時に僕の命も消えたなら
僕はそれを灯すだろうか

コンビニに売られている
100円ぽっちのそれに命が委ねられたとしたら
僕はそれを灯すだろうか

片手で押すには少し力が要る

でもその力は命を一つ失くすにはあまりに軽い
拳銃の引き金よりも
もっと軽い

痛くもない
ただ消えるだけ

煙草を吸うように
この世からいなくなれる

きっと僕はそれを灯すだろう

暗闇に浮かんで弱弱しく揺れる炎を見つめる

涙は出ない

虚ろなまま

消える

後悔はない

するとしても

それは炎が消えた後だ

 

【金井雄二評】

 

鎌田尚美「声」
 自分の実体験と言葉とが、うまくかみ合わさった作品になっています。細部にまで気を使った表現が、気持ちの微妙な揺れを表しています。よいと思いました。ただ、不満もありました。これは一行が長い行分けの詩でしょうか。詩にとって形式は大切です。思い切って散文詩の形式にした方がしっくりしたかもしれません。もうひとつ、川端康成の『雪国』がモチーフにありますが、少しよりかかりすぎているようにも感じました。最後の行で、やっと詩になり得たと思います。次も同じ手法では無理があるでしょう。次回に期待を含めた入選といたします。

 

二条冬枷「夜空を飲む」
 詩としての構成、言葉の置き方、展開と、非常にうまく書けていると感じました。ただ詩は技術だけではありません。一番必要なのは詩の精神です。あなたにとって詩とはなんですか? 常にその問を胸に詩に向かってください。本当に必要な言葉をさがしてください。期待をこめて佳作といたします。

 

宮永 蕗「古びた風」
 入選作とした詩も一行の意識が曖昧でしたが、宮永さんのこの作品も同じことが言えます。これは横書きのせいでしょうか? 一行が立つ! という言い方をするときがありますが、この作品に限っては散文的です。散文詩としてみても、構成が曖昧でしょう。モチーフもおもしろいし、詩的センスもあると思われるので惜しい気がしました。もっと過去の名作と言われる詩を読み、詩の一行は何であるかを考えるといいと思います。

 

清見苳子「8.21 風に」
 小さな部屋に見つけたもの、匂い。それらは私の目に生々しく映り、質感として読むことができました。風で洗濯物が動く様子から、逃げるイメージを呼びおこし、不穏な日常が目を覚ましたような印象もありました。他の投稿作品もよかったのですが、こちらは少々作り過ぎの感じがしました。また、このタイトルの「8.21」は書いた日付か、出来事の起こった日でしょうか。タイトルももちろん作品の一部であるため、少々疑問に思いました。

 

【中島悦子評】
 二回目の選考で投稿者の方々の顔が少しずつ見えてきました。詩歴やコメント欄も丁寧に拝見しています。いろいろな人生での詩を書く気持ちを受け止めながら。何作かを読ませていただいてやっと書き手の輪郭を掴み、これからも詩を文学の要として書き続けていただけるのかを真剣に読み取ろうとしています。入選・佳作の方はもちろんのこと、ここに名前がまだ載らなかった方も年間を通じて投稿をなさっていただければ幸いです。

 

入選
結城 涼「ライター」
 さらっとした書き方で、命のはかなさや軽さを醒めた目で見つめています。安いライターで付けた火。琴線に触れた掬い方が具体的でいいと思います。作品の終末に課題は残りますが、それはやはり作者が命とは何かつかみかねているからでしょうし、今日的感性でもあります。自身の蠢く肉体、心に向き合って結城さんなりに推敲してみてください。

 

佳作
大石瑶子「大磯」
 清潔で透明な語り口で、語感を大切にしていることが分かります。自分を語り始めたことで作品に深さが生まれてきました。英詩の分野を下地にしながらも、独自の表現にたどり着くまでいろいろな方法を試しながら書き進めると個性が明確になりよいと思います。

 

比嘉康慨「モンゴロメダ」
 面白いことにメインであるモンゴロメダ・モンゴロイドの言葉以外に勢いがあり、結構光っていました。二番目の思い付きから始めると案外いいのかもしれません。どんな言葉の組み合わせであっても新しさが命です。ラップの書き手としても、鋭い切れ味をリズムなしで一度試してみてはどうでしょう。

 

香椎有理「故郷よ」
 社会性のある詩は、書き続けることが大切です。一回限りでは成り立たないのですが、他者を思いやる誠実な書き方でした。確かなまなざしをもち、プロパガンダに左右されることなく世界を見つめ、文学作品として自立させてください。世界・人間を広い視野で受け止められるように。

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