日本現代詩人会 詩投稿作品 第11期(2018年10-12月)

日本現代詩人会 詩投稿作品 第11期(2018年10-12月)
厳正なる選考の結果、入選作は以下のように決定致しました。

【選考結果】
金井雄二選

【入選】
上野正志「つめたい夜の風」
【佳作】
鎌田尚美「ブルームーン」
鎌田伸弘「洪水後」
宮永蕗「荒野」
清見苳子「食卓」
大石瑶子「ぬえ」
長田瑞生「毛皮」

 

中島悦子選
【入選】
宮永 蕗「異郷へ」
【佳作】
加勢健一「パンダのなみだ」
西田尚「始まり」
香村びわ「sacred……」

作品数296、投稿者188


上野正志――つめたい夜の風

目を閉じて、寝たふりをした
網戸からは秋の音がして
となりにいるあなたから
少しだけ離れてみた
人間はいつだって孤独だと
気がつくことに慣れずにいる
あしの指さきがもぞもぞ動く
このまま変わらない毎日を
過ごすことの幸せに
わたしたちはそろそろ気づいた方がいい
その方がお互いを大切にできるから

宮永 蕗――異郷へ

 僕の住んでいる家だって都会と呼べる場所にあるわけではないけれど、電車はさらにニ時間ほど、波打つ水田や誰も降りない海ぎわの無人駅を経由して、やがて山間へと向かう、その途中にある古い街へ僕らを運んだ。

 木造の家々はくすんだ灰色をして、商店街の軒下には壊れたつばめの巣がこびりついている。鉄筋コンクリートの建物は学校と病院で、家並みに負けないくらい煤けている。大家の家と隣家の間を抜けると単身赴任の父が暮らしている借家があって、母と僕は掃除がてら遊びがてら訪ねてきたんだ。

 母の手伝いに飽きて外に出る。家の裏手の細くて急な坂道を下る。雨のように蝉の声が降っている。杉や松はまっすぐに聳え、ずいぶん高いところにいるのだろう、蝉の姿は見えない。道の脇には背丈ほどの椿の垣が濃緑色の葉を光らせていて、僕も消える。黒くすべらかに丸めいた、椿の実を拾わねばならない。


金井雄二:
【入選】

上野正志「つめたい夜の風」
今回、入選作品は迷いました。上野さんの作品は、技術や完成度の点からみると、入選には及びません。また斬新さ、意外さの点からも同様です。ではなぜ入選としたかです。全300編の投稿のなかで、唯一、しっかりとした発見を素直に言葉にしたものだからです。つまり、どの作品よりも、ぼくの目をひいたのです。ただ、この発見は、詩を書く人間の、本当に基本のことだとぼくは考えます。詩はここからやっと始まるのです。人生を賭けるに値する、「詩」というものにこれから立ち向かっていく覚悟なら、上野さん、また投稿してください。その覚悟がないのなら詩なんて書くのはやめなさい。投稿されている多くの方々も、同様です。そういうわけで今回は初心の手柄として、入選といたします。

【佳作】
鎌田尚美「ブルームーン」
ちょっとした伝奇、伝説を読んでいるような感じにもなり、おもしろかったです。モチーフをしっかりと作品にする力がある方だと思いました。もう一つの「片腕」ですが、こちらは、考えすぎ、小説によりかかりすぎ、作り過ぎだと感じました。

鎌田伸弘「洪水後」
簡潔な言葉で書かれ、センテンスも短く整然としています。ある意味、このように書くことは難しいと思います。その反面、詩を書くことに慣れている感じも否めません。イメージ的に希望の詩であることに好感を持ちました。

宮永 蕗「荒野」
詩の入り方、そして展開のうまさを感じました。読ませる詩だと思いました。詩が書ける方だと感じております。ただ、最終連は少し疑問に思いました。種明かしではないのでしょうが、このような終わり方がよかったのかどうか。詩は終わり方も非常に大切なのです。

清見苳子「食卓」
「窓」という作品もあり、どちらもよかったです。「食卓」では、コンロを点火させるときの状況を「一瞬のどを詰まらせた呻きの後で」と表現するところや、鍋を乗せたときの火の状態など、ディテールがしっかりと書けています。ただ、詩のむずかしさは、そこから何を導き出せるかだと思います。何をイメージさせるかです。茹で上がったブロッコリーは想像できました。

大石瑶子「ぬえ」
日本の妖怪、「鵺」を意識的に書いています。もちろん想像のなかで書かれたわけですが、その底には、なんらかの「小さな命」を自分で実際に経験した事柄が、基盤になっているのではないかと思いました。印象に残ったので、佳作とします。

長田瑞生「毛皮」
「人に毛皮はありません」という発想がおもしろいと思いました。毛皮がないから、寒くて痛いのでしょうが、その寒さと痛みとはどのようなものでしょうか?長田さんの言葉で、寒さと痛さを書かねばなりません。そこが詩になるのです。若いながら、発想、展開、言葉の使い方に非凡さを感じましたので佳作といたします。

 

中島悦子選:
 今期も多くの投稿作品を拝読させていただきました。詩の一編が出来上がるごとに書き手は浄化され、次のステップへと踏み出しているということを思わずにはいられませんでした。自分だけのスタイルを発見していきましょう。見つけたこと、感じたことを温めて大切に。巷にあふれている言葉が自分の言葉ではないはずです。思い切ってジャンプしてください。

【入選】
宮永 蕗「異郷へ」
 「僕」が語る淡々とした情景は詩的で、時間の流れが濃密に表現できています。「椿の垣が濃緑色の葉を光らせていて、僕も消える。黒くすべらかに丸めいた、椿の実」等、印象深い色彩を味わいました。それでも、新鮮さという観点からはどうでしょうか。既視感は否めません。作者・「僕」・読者との関係性、物語の意味、現在との位置などが曖昧に感じられました。散文詩は、散文のみで成り立つものではないと私は考えています。

【佳作】
加勢健一「パンダのなみだ」
 作者のコンセプト「現実と非現実とを自在に行き来する詩」は、興味深いです。パンダと造幣局御用達のインキの関係がやや不明瞭ですが、何かブラックユーモアを意図しているのだと思われます。誰もが知っているパンダをどのように料理するのかが腕の見せ所です。大いに冒険しつつも、読者への伝わり方を客観的に判断して、これからも楽しんで書き進めてください。

西田尚「始まり」
 自分の心の在り方を整理して素直に書いていました。自分を客観視できる視点は重要な要素なのでこれからも忘れないようにしてください。今後は、詩の題材、モチーフをより重層的に組み合わせられることが課題となるでしょう。多くの作品を読み研究してみてください。まさにこれが「始まり」となることを願っています。

香村びわ「sacred……」
 表現への意欲が感じられる作品でした。イメージ、語り口、物語性など、まさに捧げられたものをめぐっての多様な要素が詰め込まれていました。ただ、それらの貴重な像を辿っていくと、全体が見えにくくなってしまうような構成でもあるように私には感じられました。詩としての大きなまとまり、ポイントにも目を向けて書くとさらによいのではないかと思います。

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