嶋田隆之「プゼレント」
「はい、おてまみ」
そう言って渡されたのは
折りたたまれたチラシの切れ端で
開くと裏には連なる不思議な模様で
もう一枚のチラシの裏には
色鉛筆で描かれた赤いリボンの女の子
「これ、なあに」と聞く僕に君は
「プゼレント」
と笑った
そんな君が今日
黙って僕の前に置いたのは
小さな紙袋がひとつ
「なに、これ」と聞く僕に君は
「割と有名なクラフトビールらしい」
と小ぶりのビール瓶を出し
「アテにもなるし、ご飯に乗っけてもおいしいってさ」
とラベルを見ながら瓶詰を二つ並べ
並べ終わるとすぐに
関係ないね という顔に戻り
後はご自由に という足が階段を上り
あっという間に部屋の戸が閉まり
いつもどおりの 何にもない夜ばかり
「おてまみ」はないけれど これは君からの
「プゼレント」
さっそく僕は そっと
そうっと栓抜きに力を入れ
折れ曲がらぬように力を込め
傷がつかぬように力を込め それでも
少し曲がってしまった王冠を
つまみあげ 裏も表も眺め
瓶詰と並べて置いて
コップにビールを注ぐ
「プゼレント、プゼレント」と
小さく笑う泡の向こうで
大きな赤いリボンの女の子が
あっちをむいて きっと
笑っている
僕はカラオケが嫌いだ
だって、それっぽいことをそれっぽく歌ってるだけじゃないか
みんな電波と気を遣って 無難な曲を探して
場を盛り上げたり 思ってもない愛を歌ってみたり
何が楽しいんだろう?
僕はカラオケが嫌いだ
僕には 万人受けする十八番が存在しないから
ちょっとでも道が外れれば
集まりそうで集まらない冷ややかな目線
自分の好きなの歌っていいんだよ、って
お世辞じゃないのは知ってても
お世辞にしか受け取れない僕と そうさせてる空気が嫌いだ
僕はカラオケが嫌いだ
音楽を奏でるのは好きだし 歌もそれほどコンプレックスじゃない
でも 社交辞令みたいなカラオケは
工場のライン作業みたいに無機質な感じがして身体が縮こまる
あ…ごめん。選曲ミスったわ。
声帯で音階を出力しながら 申し訳なさで蛹に閉じこもる
僕はカラオケが嫌いだ
自分が型から外れた人間であることを これ以上認識させられる機会はないから
1人で過ごしたいな その気持ちは無視できないけど
その空気の中で ありきたりみたいな音の中で 不可能なのは知っている
やっぱり僕は外れた人間なんだね この部屋から出ようかな
部屋から出たところで 充てはないし 実際出たくはないかもしれないけど
好きなもの同士 同じもの同士
それは楽で 有機的で のびやかだ
でも抑えられない 社会に属したいという欲
だから無理しちゃう 無理してまた、カラオケが嫌いになる
外の空気に帰ったら まずは溜息
選曲ミスってごめん……。呟きそうになり、心にしまう
カラオケ、好きになってみたいな。