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あの日から、明日へ―開館30周年記念出版と特別企画展開催のご報告

あの日から、明日へ
 ―開館30周年記念出版と特別企画展開催のご報告
  日本現代詩歌文学館 豊泉 豪

 昨年5月、日本現代詩歌文学館は開館30年を迎えた。日本現代詩人会の皆様には、開館以来今日まで、常に多大なるご協力をいただいてきた。この場をお借りして厚く御礼を申しあげます。
 現代日本の詩歌資料を悉皆収集して永久保存し、後世に贈るという、壮大な理想を掲げて詩歌文学館は出発した。真の価値が理解され、ここに宝の山があることを皆が知るのは、100年はのちのことになるだろうと、誰かが言った。だとすれば、30年は館の歴史にとって、むしろ草創期に過ぎない。
 とは言え、区切は大切である。一地方都市として前代未聞の、全国的文化事業の立ち上げに情熱を傾け、その運営に力を尽くしてきた先人たち、そして資料収集や活動に惜しみないご支援をくださる詩歌人の皆様に敬意と感謝を込めて、ささやかでも何か記念となる事業を行いたいと考えた。
 折しも、東日本大震災の発生から10年が経とうとしていた。この千年に一度の大地震と大津波を、あの忌まわしい原発事故を、そしてそののちの日々を、現在なお未解決の問題も含めて、詩歌はさまざまな視点や方法でことばに刻んできた。それは数字やデータや映像には残らない、私たちの心の、そして生そのものの記録であると言えるだろう。こうした作品を集め、共有し、そして未来の人々に贈るため、出版事業を行うこととなった。
 まず、全国1千人の関係者を対象に、東日本大震災を題材とする詩歌作品について、アンケート調査を行った。詩・短歌・俳句・川柳各分野、自作一作品と、他作家の三作品までを挙げてもらうというものである。結果、およそ600人からの回答があり、549の自選作(うち詩154・歌145・句180・柳70)を得た。さらに、他作家の作品として挙げられたものを編集部で選定したうえで、著作権者の許可が得られた417作(詩67・歌139・句136・柳75)を収録し、計966作品を収めるアンソロジー『東日本大震災と詩歌―あの日から、明日へ』を、今年3月に刊行した。
 作者の居住地は全国におよび、もとより震災との距離は物理的にも、心理的にも、それぞれである。目を覆いたくなる現実や、それでも私たちがけして忘れてはいけない事実とともに、書き残さなければ作者本人の記憶からも消えてしまうような、その時々のリアルな思いが、ここには残されている。「詩歌悉皆」を志す私たちにとって、それぞれであることは何よりも大切である。そのような意味で、本書の刊行はまさに詩歌文学館らしい〝区切〟となったと言えるだろうか。
 それと同時に、特別企画展「大震災と詩歌―あの日から、明日へ」を開会した。東日本を中心に、北海道南西沖、中越、阪神淡路、熊本、さらに中国四川の各地震をテーマとした計60の作品(詩16・歌18・句16・柳10)が、作者の自筆によって出品された。当初3か月間の予定だったが、未だ自由な往来が叶わない状況のなか、今年度常設展を兼ねて来年3月まで、約1年間に会期を延長した。また、展示図録を上記アンソロジーと合冊で発行した。
・夕焼け売りの声を聞きながら/ひとは、あの日の悲しみを食卓に並べ始める。/あの日、皆で囲むはずだった/賑やかな夕餉を、これから迎えるために。     齋藤貢「夕焼け売り」
・惨劇の渦中にある被災地の人びとへの思いを馳せつつわたしたちはこの列島に生きとし生けるものとして覚悟をあらためねばならぬ。   倉橋健一
「この列島に住まいするものとして」
・歳重ね/重ねて生きて/さらに生きつぐ    安水稔和(書き下ろし)
 詩の出品作品から、ごく一部を抜粋した。今日を、そして明日を生きていくためにこそ、私たちは災害と深く向き合い続けなければならないのだと、いま、改めて感じている。
 


アンソロジー『あの日から、明日へ―東日本大震災と詩歌』
 


特別企画展「大震災と詩歌―あの日から、明日へ」
 2021年3月9日~2022年3月13日
 休館日 12月~3月の月曜日 入場無料

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