研究活動・親睦

詩祭

日本の詩祭2019開催

日本の詩祭 2019 開催
新 時 代 の 夜 明 け
H氏賞・現代詩人賞贈呈、先達詩人顕彰
6月2日、アルカディア市ヶ谷

 日本現代詩人会最大のイベント「日本の詩祭2019」が、「新時代の夜明け」というサブテーマで、6月2日(日)、東京、市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷で開催された。実行委員長を山本博道副理事長がつとめ、秋亜綺羅理事長が開会の挨拶。詩祭は二部構成で、13時からの第Ⅰ部では、H氏賞、現代詩人賞の贈呈式と、先達詩人の顕彰。それぞれの挨拶と詩の朗読があった。
 第Ⅱ部は安藤元雄氏による講演とミニコンサートがあり、会場を魅了した。
 17時30分から懇親会に移り、一色真理理事の閉会の挨拶で終了した。(詳細は1~7面。写真・動画撮影は光冨郁埜理事。)

◇第Ⅰ部(司会・水島英己、山中真知子)

水島英己氏と山中真知子氏、秋亜綺羅理事長

 初めに司会の水島英己氏と山中真知子氏がそれぞれ詩祭の第Ⅰ部と第Ⅱ部の概要を説明した。
 続いて開会の辞の中で秋亜綺羅理事長は、日本現代詩人会は来年一月に70周年を迎え、記念イベントを日本各地で行うので、そこにも参加していただきたい、これから詩壇として熱い時代に入ってゆけたらいいと思うと述べた。

◇H氏賞贈呈式

H氏賞を受ける水下暢也氏

水下暢也氏、福田拓也選考委員長、杉本真維子氏

 第69回H氏賞の贈呈式が行われた。福田拓也選考委員長は、13冊の候補詩集について新人かどうかも含めて丁寧な討議を行った結果、しばしば難解な漢字を使った硬質な言葉で読みにくさを増殖させながら、現実と幻のあわいのような曖昧な空間を見事に造形しており、迷路の奥にあるような異様な空間に導き入れるような魅力がある『忘失について』が、選考委員の熱狂的な賛辞を最も集めたとして、受賞詩集としての魅力を詳細に解説した。
 また、第2回目及び第3回目の投票で、漢字の独特の使用によって読みの遅れを誘発し、本文とそれより少し小さめの文字で印刷されたルビ的な詩行を重ねた独自のスタイルを持つ『リリ毛』、言葉が充実していて気づかれない闇を照らすところがある『噓の天ぷら』及び語彙が豊富で大変巧く、かつ完成されているが新人ではないという評価もあった『軸足をずらす』が、これらの短所を含め候補として議論されたと述べた。
 新藤凉子会長から『忘失について』の著者水下暢也氏に賞状と賞金が授与された。
 受賞詩集について、詩人の杉本真維子氏は、水下氏とは本日が初対面であり、東京新聞の夕刊の「詩の月評」に受賞詩集を取り上げた関係であると述べ、この本に自分のことが書かれていると思うときに、人は人ごとを超えた本当の読書になると思うが、水下詩集を読んでそういう経験をしたと語った。そして作品「五月の習作」、「かみかくし」、「石蕗と懸巣」、「七郎の住処で」、「狙撃者の灰色」について、作品を部分的に朗読しつつ、杉本氏がどこに自己の体験を思い起こさせる感動した箇所があったかを説明し、具体的に作品を立ち上がらせて受賞を祝福した。
 水下暢也氏から受賞の言葉があった。水下氏はまず、日本現代詩人会の会員の皆様、選考委員のお一人お一人、思潮社制作部の和泉紗理氏、編集者の出本喬巳氏への謝辞を述べ、長い時間をかけて詩集を作った出本氏とでなければ詩集はこういう形にならなかったと話した。また、詩集の栞文を担当した現代詩手帖賞受賞時の選考委員の岸田将幸氏と広瀬大志氏、兄と母、詩作上のインスピレーションをもらった姪と甥、賞発表冊子への紹介文を執筆し受賞者紹介スピーチを行った杉本真維子氏にも感謝の言葉を捧げた。更に、詩人以外で温かい言葉をいただいた映画批評家の赤坂太輔氏、映画批評家で映画作家の葛生賢氏、書店員の葛生葉氏、フランス文学者で作家の鈴木創士氏、映画研究者で関西大学教授の堀潤之氏、映画作家の三宅唱氏、及び「現代詩手帖」年鑑号で評をいただいた峯澤典子氏、松本秀文氏、藤原安紀子氏への謝意を述べ、厳しい姿勢で批評活動を行っている若い詩人、森本孝徳氏、小縞山いう氏、佐藤雄一氏の名前も紹介した。そして、昨年多くの詩集が出て私の詩集もその一冊に過ぎないと思うと述べた。
 日本現代詩人会と思潮社からの花束の贈呈が行われた。

◇現代詩人賞贈呈式

現代詩人賞を受ける齋藤貢氏

齋藤貢氏、武子和幸氏、細野豊選考委員長

 続いて第37回現代詩人賞の贈呈式が行われた。細野豊選考委員長は、11冊の候補詩集について各委員が意見を述べ投票を繰り返す中で(選考委員会欠席の細身和之委員の文書によるコメントは第1回目の投票にのみ反映させた)、東日本大震災という悲惨な出来事を扱っているにもかかわらず読後不思議な充足感が残り、災害を奥深いところで捉えて社会的問題として提起した『夕焼け売り』が最終投票5対1(1票は白票)で受賞したと述べた。
 また、できるだけダブル受賞を避けるよう理事会から要請があり、既受賞詩集の『端境の海』と『しおり紐のしまい方』は好評だったが選考委員票を得なかったこと、終盤まで残った、長年の人生を経て到達した境地が伝わる『闇の発光』、しなやかな感性による言葉が心に響く『洋裁師の恋』、淡々とした筆致が多くの共感を呼んだ『そして溶暗』も受賞詩集と優劣をつけがたい詩集であったとして魅力に触れた。
 新藤会長から『夕焼け売り』の著者齋藤貢氏に賞状と賞金が授与された。
 齋藤氏と同じ「白亜紀」同人の武子和幸氏が受賞者の紹介を行った。震災当時齋藤氏は福島県南相馬市の県立高校校長として大津波を目撃し、その直後の原発の水素爆発による恐怖の中で、生徒の避難計画と学校運営に日夜奮闘し、放射性物質を帯びた痛ましい遺体だけが砂浜の瓦礫の中に取り残されている状況を目の当たりにしたと説明し、齋藤氏がそれまで見えなかったものが見えるようになったと言っていると述べた。そして、詩篇「禁句」では、情報伝達における意図的で作為的なレトリックを強く告発し、それによって人間の心の森の多義的な意味が奪われてしまうと寓意的にうたっていると指摘した。また、詩篇「火について」の宗教性や楽園喪失を浮かび上がらせる鋭い批評性及び17世紀のイギリスの詩人ジョージ・ハーバートの詩篇「犠牲」を想起させる最後の詩行「この痛みに、あとどれほど耐えねばならぬのですか。」について、精妙な読みを示し、本詩集は見えない恐怖と混沌の中に取り残されたまま死者達にどのように向き合うかを問う詩集であると語った。
 齋藤貢氏は受賞の言葉を通じ、新藤会長、武子和幸氏、各選考委員、震災や原発事故への怒りを言葉にした自分の詩集に共感を寄せてくださった皆様、及び日本現代詩人会とその会員の皆様への感謝を表し、震災や原発事故を通して感じたことを二つ述べた。
 一つは、実用的な技術の総体としての高度な文明がその土地の歴史と密接に繋がる文化を破壊し、村落や地域といった共同体や家族までも分断し、引き裂いてしまう不条理についてだった。また、二つ目に、シベリアの強制収容所での体験の悲惨な現実の中でかけがえのない人間性が崩壊してゆく姿を「風化」という言葉で表現した石原吉郎になぞらえて、放射線被曝の恐れからいまだ避難を余儀なくされている住民が福島に多数いる現状の風化への懸念を示し、異常なものを異常なものと受けとめる日常性を私達は失ってはならないと訴えた。そして、このような現実を今どのような言葉で語りうるのか、言葉の力が試されていると述べた。
 日本現代詩人会他3名の方から花束の贈呈が行われ、粟津則雄氏、福島県現代詩人会他1通の祝電の披露が行われた。

◇先達詩人の顕彰

清水茂氏

 新藤会長から清水茂氏に顕彰状と記念品の贈呈があった。
 続いて新藤会長から清水氏について紹介があり、冒頭で、昨年度の第36回現代詩人賞の受賞に引き続いての快挙であると先達詩人の顕彰を祝福した。そして、「どの御作品をとりましても私どもが心打たれたのは、日本語の美しさでした。」と述べて、昨年の清水氏の現代詩人賞受賞の言葉「詩人は他者を攻撃したり蔑むのではなく、受け手が喜ぶ安らぎを感じる言葉を差し出してゆきたい。」を思い出させられ、是非とも私どもはそのような言葉を使いたいものだと話した。更に「人との出逢いをどれだけ大切に生きてこられたか、このような態度で人と接するならば戦いなどというものは生まれて来ません。これこそ詩人の仕事です。」と述べて、清水氏の詩人のとしての姿勢を称えた。
 清水茂氏は、先達詩人の顕彰に対し、いまだ夢に違いないから醒めるだろうという気分の中にいるが、何かしら温かいものを現代詩人会からいただいたという気持ちがあると謝意を述べた。そして、自分が若い頃に聴いた文化使節として来日したフランスの作家ジョルジュ・ディアメルによる「文明」と題した講演について触れ、ディアメルのエッセイ集『わが庭の寓話』のジャムのタイトルのお話を紹介した。
 デイアメルが自宅で果物のジャムを煮ていたところ経済学者が訪れ、光熱費や原料費やどのぐらいの手間がかかるかを尋ね、市販の壜詰めのほうがはるかに安いと言い放ったため、彼はジャムが出来るときの言いようのない素晴らしい香りを楽しんでいるのであって、出来上がったらみんな捨ててしまうのだと言ったが、経済学者が去ったあと私達はそのジャムを捨てずに食べたと書かれているという。清水氏は、経済学者のヨーロッパ中心の近世近代の一種の合理主義に基づく考え方に対し、ジャムの香りの中にこそ、詩というものの持つ本質があると思うと述べた。また、柿本人麻呂、松尾芭蕉、良寛、杜甫、李白、タゴールなど言葉のジャムを煮てその香りを私達に送ってくれた人達がおり、そのことを私達詩人は守ってゆきたいという「新しい時代の夜明け」に向けた抱負を語った。
 その後、清水氏へ、日本現代詩人会他2団体からの花束の贈呈が行われた。
 最後に水下暢也氏がH氏賞受賞詩集の中から「十七」、「かみかくし」、「姉妹」を、齋藤貢氏が、現代詩人賞受賞詩集の中から「寒い火」、「渡るひと」、「夕焼け売り」をそれぞれ朗読した。受賞者及び先達詩人の力のこもった言葉と詩を堪能でき、第Ⅰ部が有意義に終了した。 
 (記録・渡辺めぐみ)

 第Ⅱ部は、詩人でフランス文学者の元日本現代詩人会会長安藤元雄氏による『続・詩が立ち上がる場~フランス詩から学ぶこと~』と題する講演とミニコンサートが行われた。

◇講演

安藤元雄氏

 初めに司会の水島英己氏より、本日の講演は1月の日本現代詩人会の現代詩ゼミナールでの安藤元雄氏による講演「詩の立ち上がる場」の続編であり、安藤氏は仕事の幅や質の深さに非常に自分が心打たれてきた詩人であるとの紹介があった。
 安藤氏は、新藤会長による再びの強い出演依頼の理由を、詩が衰退しているわけではないが、求心力を失いばらばらになっていることへの危機感があるのではないかと推察し、そのための処方箋はないが60年間詩作してきて考えたことをお話しすることで皆さんに考えていただけるのではないかと思うと述べた。そして、江戸時代に加賀(石川県)の千代女という人が詠んだとされる俳句三句の例を挙げ、一句は千代女のものだが二句は他の人の詠んだものらしいにもかかわらず、他人の作がいつのまにか千代女に仮託されて伝えられていたと話し、千代女は普遍的な無名の人になっており、これが詩の一つの理想ではないかと語った。続いて自らの翻訳したフランス詩のレジュメを参照しつつ、ジェラール・ド・ネルヴァルの詩「シダリーズ」(草木の精霊を指す言葉)について、日本語訳と原文を比較しながら直訳と意訳の違いを次のように説明した。例えば直訳の「僕らの恋人達はどこにいるか。/彼女達はお墓にいる。」を単語の意味やフランス人がよく使う言い回しをよく理解して訳すと「恋する女達はどこへ行った。今はみんな あの世ヘ行った。」となり、あの世へ行った彼女達は幸福に暮らしているという展開に繋がる。こういうことを読み取ることで構造体としての詩を読み取ることが必要である。詩とは、考えてみれば全部翻訳であり、何か雲みたいなものがあったとすると、それを言葉に翻訳するというものではないか。
 また、シャルル・ボードレールの「あほうどり」について次のように述べた。船乗りに捉えられたあほうどりは、羽が大きすぎて甲板を巧く歩けず受難者、被害者と考えられるが、『悪の華』の初版に作品番号2番として収録されていた詩人の優越性を太陽に託してうたった「太陽」をはずし、再版で「あほうどり」を入れたことから、ボードレールが弱者に対する視点を強めていったと言える。ここに今詩を考える上でのヒントの一つがあり、私達は強者の味方をしても仕方がない、弱者の味方をすべきである。しかし、社会主義者になり革命や社会改革を考えるのは政治家や政治活動家の役割で詩人の役割ではない。詩人は体制の中で右や左、強いか弱いかというレベルで考えるべきではなく、体制の外へ出るべきなのである。それが詩人の特権である。
 更に、ジュール・シュペルヴィエルの詩「秘められた海」について次のように解説した。「誰も眺めていないとき/海はもう海ではない、/誰も僕らを見ないとき/僕らがなるものと同じになる。」部分の詩行は子供時代にかくれんぼをして押し入れに隠れたときの、自分は何なのかわからず、自分というものの境界線がなくなってゆく感覚を思い出させる。このような詩を読み、このような詩を書きたいと思う。
 最後は朝日新聞の「天声人語」と「赤旗」の記事に記載されている安藤氏の学友で映画監督の故降旗康男氏が、企業の創業主を主人公とした成功物語を作る話を断り、「世の中からはじき出された人の中にある美しさ、尊さを描いてこそ映画だと思う。」と述べたことや、「映画というのは、見る人がそれぞれに受け取って完成していくもの。」だという価値観を持ち、結論を出さない映画を作ったことへの賛辞を送った。そして、詩を書く際も結論を人に任せることが大切であり、詩は書いたことで成立するのではなく、読者が読んだときに初めて成立し、読者がほわんと何かを感ずればそれが詩であると語った。また、弱者が自分の弱さで居直ると強者に転換してしまう、弱者は居直らず謙虚に弱者のままでいることが必要であると警告し、人間はもたれ合い、絡み合ってなんとか生きており、詩人と言えども一人で立っているわけにはいかないと結論を述べた。

◇ミニコンサート

近藤美里氏(ソプラノ)、入江晴美氏(チェロ)、坪井侑希子氏、(ヴァイオリン)、山崎拓未氏(ピアノ)

 山中真知子氏の司会でミニコンサートが開始された。初めに山崎拓未氏(ピアノ)、坪井侑希子氏、(ヴァイオリン)、入江晴美氏(チェロ)によるブラームス作曲の「ハンガリー舞曲」、「エルガー作曲の「愛の挨拶」、シューマン作曲の「トロイメライ」、及びフォーレ作曲の「シチリアーノ」が演奏された。
 続いて近藤美里氏(ソプラノ)が加わり、山崎氏編曲による60年代の映画音楽及び70年代のテレビ時代劇からお馴染みの懐かしい曲が、圧縮されたメドレーで演奏された。そして山崎氏から御挨拶があり、最後にチェロとヴァイオリンとピアノによるハンガリーの曲「チャルダッシュ」が演奏され、美しい演奏に心を奪われるひとときがあっという間に過ぎた。
 4人の出演者のそれぞれに、日本現代詩人会から花束の贈呈が行われた。 山本博道実行委員長が、閉会の辞で、受賞者、先達詩人、講演者、若い演奏家と歌い手及び聴衆に感謝の気持ちを伝え、第Ⅱ部が終了した。

山本博道実行委員長

◇懇親会

司会の根本明氏と岡野絵里子氏、会場風景

 午後5時30分から会場を移して懇親会が行われた。司会は根本明氏と風邪により欠席の海埜今日子氏に代わって岡野絵里子氏。新藤凉子会長が、日本現代詩人会70周年に向けての本年秋の福井県の三国での催しに是非お越しいただきたいとの開会の挨拶を述べた。続いて平澤貞二郎記念基金代表の平澤照雄氏が、平澤貞二郎氏が村野四郎氏に出逢い昭和24年にH氏賞が創設された経緯を振り返り、もっともっと若い方々をご指導いただき日本現代詩人会を発展させていただきたいと要望を述べた。次に、来賓の日本詩人クラブ会長の川中子義勝氏が祝辞の中で、H氏賞と現代詩人賞受賞詩集及び清水茂氏と安藤元雄氏のお話に対する感想を述べ、日本現代詩人会と日本詩人クラブは協力し合って歩んでゆきたいと話した。前日本現代詩人会会長の以倉紘平理事が、伝統と前衛を両輪にして日本現代詩人会を営んでゆきたいと述べて乾杯の音頭を取り、宴となった。
 歓談の合間に、佐々木貴子氏、根本正午氏、山本由美子氏、高島りみこ氏、Shie氏、及び尾崎まこと氏が、新入会員挨拶を行った。また、遠方から来た会員の井上尚美氏、菅沼美代子氏、左子真由美氏、植木信子氏、中村純氏、小笠原茂介氏、桑田窓氏、原利代子氏、瀬崎祐氏及び池田瑛子氏がスピーチを行った。一色真理理事は、閉会の言葉の中で、自分が40年前にH氏賞を受賞した頃に比べ批評が隠れ、権威に黙ってしまうような時代になったが、それでは世間も振り向かないのではないか、批評や批判をし合える現代詩の世界を実現していこうではないかと述べ、午後8時に懇親会が終了した。(記録・渡辺めぐみ)

新藤凉子会長、平澤照雄氏、川中子義勝氏、以倉紘平理事


新入会員の皆さん


植木信子氏、桑田窓氏、原利代子氏、瀬崎祐氏


一色副実行委員長

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