各地のイベントから（３月20日まで）

各地のイベントから

みえ県民文化祭現代詩大会
　　北原千代氏講演
　　　「私の好きな、愛の詩」
（２０１７年10月10日）

　歌人、河野裕子さんとは、私が詩を書き始める上で、決定的な出会いだった。その歌は、六十四年間の人生の記録を、リアリズム、日常的で解りやすい言葉で詠まれていると紹介された。
　次に、新川和江さんの作品「わたしを束ねないで」。十回の〈わたし〉の願いに込められた強い叫び、意志が〈わたし〉＝作者個人から離れて、私（北原千代さん）の中で生き続けている作品だと紹介された。
　松下育男さんは、『現代詩手帖』「詩の書き方」で、初心者のために、詩を書く時の秘密を教えてくれていると紹介。詩、詩人に対する愛情が感じられる人だと話された。
　最後に一三〇年前の詩人、エミリー・ディキンスンについて。五十五歳で逝去。死後姉により出版され、十一刷までの評価を得た。酷評され、ひきこもりになっても、自分の意志を貫き詩を書き残したことを賞讃された。
　北原千代さんは、詩が大好きな人だ。
　講演は、作品への愛情に包まれた言葉が、バラの花のように飛び交い、暖かい雰囲気を残し終了した。
（三重県詩人クラブ事務局長村井一朗）

秋の詩祭「まどさんからの手紙」
　講演　大橋政人氏
　　主催　群馬詩人クラブ
　　後援　日本現代詩人会

　平成二九年一一月二五日（土）、前橋テルサに於いて総会を行ない、事業・決算の報告、新幹事、事業、予算案等有意義な意見を戴き、承認され、おごそかな内に総会は閉会し、新幹事会が発足した。
　秋の詩祭は、同会場で引き続き開かれ、当会発足六〇周年にふさわしく、三好達治賞受賞の大橋政人氏を講師に「まどさんからの手紙」と題し大橋節をぶちあげてもらった。講師紹介で富沢智氏（現代詩資料館「榛名まほろば」館長)は、「まどみちをと大橋政人」の交流を白秋―朔太郎―三好達治―谷川俊太郎―まどみちを―大橋政人は現代詩の系譜のなかにあり、「まどみちをと大橋政人」は哲学から関与している。ここに共通点があると興味深い紹介をした。
　いよいよ講演、会場に四六名も居るとは思えぬ静けさである。大橋氏は谷川俊太郎の「こんな短い言葉で、こんな優しい言葉で、こんな深い詩を書いた詩人は世界中でまどさんだけだ」を引用して、まどみちを氏との交流を振り返った。振り返ると言うと大橋氏（群馬県）と私（栃木県）の二〇代始めに接点があった。西武池袋線富士見台駅下車貫井町に二人共住んで居て、私がよく飲みに行った赤提灯に大橋氏も出入りしていたと言うのだ。一度や二度は会っていたかも知れない不思議な縁がある。話をもどそう。大橋氏は自作詩「まどさんへの質問」で、まど・みちをさんとは／電話で一度話しただけで／結局、一度も会えなかった　と書いている。講演資料のまどさんからの手紙の六通共、まどさんの真情が表われていて、それに答えるようにまどさんの詩「リンゴ」「アリ」「あかちゃん」「けしき」と朗読しながら、大橋氏の目が、心が一作一作を説き明かし、まどさんの詩の神秘主義のこと、対極としてニヒリズムについて自論を熱く語った。
　（文責　堀江泰壽）

　兵庫県現代詩協会　第７回ポエム＆アートコレクション２０１８
　　「竹中 郁、神戸という風土が生んだモダニズム詩人」
　　　　講演　たかとう匡子

　「兵庫・神戸を生きた詩人を語る」シリーズの、足立巻一、綾見謙、中村隆、君本昌久に続く五回目の講演である。
　竹中郁は神戸に生れ住んで、文字通り神戸のモダンな風土を詩の糧に、新しい詩の精神を呼び覚ます場所とした。神戸の港は国際港だから、海を通じて世界と直接つながっている新しい波がどっさり入ってくる。竹中はこの海と波をバックボーンにしながら近代的なウイットの詩を書いた。時代の風をうまく背負って生き、そのモダニズムに焦点をあてながら話が展開された。
　モダニズムとは一般には言語感覚、言葉のセンスを重んじ、言葉を絵の場合の絵の具や音楽の場合の音と同じ位置でとらえるものと考えられている。竹中郁のモダニズムは神戸独特のハイカラな家に育ちながら、五人の子どもにも恵まれ、家庭を大切にして、単に言語美の追求だけでもない日常性の分野、抒情詩の領域を深く自分の詩に溶かし込んでいった。
　竹中は詩集「枝の祝日」、「象牙海岸」、「竜骨」、「動物磁気」、「ポルカ・マズルカ」ほか多くの詩集を刊行している。また児童詩誌「きりん」を井上靖と一緒に創刊監修、児童たちの詩の育成にも力を入れている。その他、市立入江小学校や県立兵庫高等学校などの校歌や、近鉄バファローズの歌などたくさん書いたことでも広く知られている。
　九十分という短い時間ではあったが、竹中郁の人となり、生き方、詩集の軌跡、詩業等について検証がなされた意義深い講演だった。（丸田礼子）