研究活動・親睦

詩集賞の紹介

2019年・詩集賞の紹介

第69回H氏賞   水下暢也氏詩集『忘失について』
第37回現代詩人賞 齋藤 貢氏詩集『夕焼け売り』
6月2日「日本の詩祭2019」で贈呈式

 第69回H氏賞、第37回現代詩人賞の最終選考会が3月2日(土)午後1時から、東京・新宿区の早稲田奉仕園で開かれ、H氏賞が水下暢也氏、現代詩人賞が齋藤貢氏の受賞が決定した。
 贈呈式は、6月2日(日)午後1時から、東京・市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷で開催される「日本の詩祭2019」で行なわれる。(受賞者のことばと選考経過2・3面)

 H氏賞・水下暢也


現住所/埼玉県久喜市在住。
 出生地/東京都町田市。
 生年月日/一九八四年三月二六日。
 最終学歴/埼玉県立北本高等学校卒業。
 その他/第五六回現代詩手帖賞。

 現代詩人賞・齋藤 貢


 [略歴] 
一九五四年福島県生まれ。茨城大学卒。国語の教員として県立高校に勤務した。東日本大震災と原発事故が起きた二〇一一年は、事故を起こした福島第一原発から北へ約十四キロ、警戒区域となって立ち入りを禁じられた福島県南相馬市小高区の高校に勤務していた。
一九八七年に詩集『奇妙な容器』(詩学社)で、第四十回福島県文学賞。詩集には『竜宮岬』(二〇一〇年 思潮社)、『汝は、塵なれば』(二〇一三年 思潮社)など。詩誌「歴程」「白亜紀」「孔雀船」「コクリコ雛罌粟」同人。福島県現代詩人会理事長。いわき市在住。


H氏賞 受賞のことば 水下暢也
H氏賞を受賞して

 まず記しておきたいのは、思潮社の皆さんに助けられながら『忘失について』が上梓されたことです。とりわけ私の拙い写真をもとにしながら素晴らしいデザインにしていただいた制作部の和泉紗理さん、私の意思を尊重し激励し続けてくれた編集者の出本喬巳さんに感謝を伝えたいです。また、栞の文章を書いていただいた詩人の岸田将幸さん、同じく詩人の広瀬大志さんには心から感謝しています。さらに詩集を上梓するにあたって私からの急な連絡に快く応じていただいた方、詩集を読んでことばを寄せていただいた方、さまざまな事柄のひとつひとつを思い出しながら今受賞のことばを書いています。
 折角の機会を得られたので、敢えて詩人以外で幾人か名を挙げ感謝と敬意を表したいと思います。どなたも厳しいまなざしを持ちつつ柔和な感性で「ことば」を紡ぎ続けています。映画批評家の赤坂太輔さん、映画批評家で映画作家でもある葛生賢さん、長年書店員をつとめている葛生葉さん、フランス文学者で作家の鈴木創士さん、映画研究者で関西大学教授の堀潤之さん、そして映画作家の草野なつかさん。紙幅の都合もあり以上の方に限りますが、沢山の方に影響を受けてきたのを改めて実感していますし、尊敬する方からの温かいことばは大変励みになりました。
 2016年5月にドイツの映画作家クラウス・ウィボニーのレトロスペクティヴ、同年11月にフランスの映画作家ジャン=クロード・ルソーのレトロスペクティヴが神戸、京都、東京を巡回するかたちで催されました。この二人の偉大な映画作家を積極的に日本に紹介したのは赤坂太輔さんで、その年のレトロスペクティヴに合わせて両監督とも来日しました。ちなみに、神戸映画資料館で上映されたクラウス・ウィボニー監督の『シラクサ』は詩の朗読についての映画といってもよく、詩人のドゥルス・グリューンバインと協同でつくられています。『シラクサ』以外にも協同でつくられた映画はあるようですが、残念ながら日本ではあまり知られていないようです。ここで短いですが、手もとにある手帳から私が書き留めた両監督のことばを書き写します。いずれも神戸で行われた上映後のトークでの発言になります。「映画も音楽のように消え去ることを本質とする」というクラウス・ウィボニー監督の発言と、「イメージをとらえるのではなく、イメージのほうから、イメージにとらわれるように」というジャン=クロード・ルソー監督の発言は木霊となって、たとえば、葉末の水滴にたまさかの振動があたるのに似て、私が紡ごうとすることばを揺すぶったのではないかと、のんきな錯覚かもしれませんが、示唆に富むこのことばと出会えた貴重な経験は忘れたくありません。これからもさまざまな詩情に触れながら、時にことばでは近づき得ないイメージとの隔たりを感じながら、それでも書くことはやめないのではないかと思っています。
 最後に、現代詩手帖賞をいただいた際の「受賞のことば」と重複しますが、私の母に対する特別の感謝を明記しておきます。この思いはいつまでも変わることはありません。また私の兄にも同様の深い感謝の気持ちがあります。ありがとう。

詩集賞決定までの経緯
〔開票理事会〕
 H氏賞と現代詩人賞の会員投票を受け、2月2日(土)、早稲田奉仕園で開票理事会を開き、定例の議題審議の後、投票管理委員の会員、太原千佳子、松尾真由美両氏の立ち合いのもと開票と集計が行われた。
[第69回H氏賞選考]
 締切り時点の会員数は1047名で、H氏賞の投票者は306名。有効票243票、白票53票、無効票10票。投票率29.2%。集計後同会場で第1次選考委員会が開かれた。
 H氏賞の会員投票による上位10冊までの詩集は次の通り。
①佐々木貴子『嘘の天ぷら』
(土曜美術社出版販売)40票
②和田まさ子『軸足をずらす』
(思潮社)9票
②高島りみこ『海を飼う』(待望社)9票
④野田順子『ただし、物体の大きさは無視できるものとする』
(モノクローム・プロジェクト)8票
⑤服部 誕『三日月をけずる』
(書肆山田)7票
⑥森田海径子『紫山』(歩行社)6票
⑦石川厚志『山の向こうに家はある』
(思潮社)5票
⑦大木潤子『私の知らない歌』
(思潮社)5票
⑦小川三郎『あかむらさき』
(七月堂)5票
⑦水下暢也『忘失について』
(思潮社)5票

 以上10詩集を会員投票候補として理事会から選考委員会に申し送った(本来は8詩集であるが7位が4詩集となったため)。
 選考委員は池田瑛子、伊藤悠子、齋藤 貢、高橋英司、谷元益男、野木京子、福田拓也の各氏。第1次選考委員会で福田拓也氏を選考委員長に選んだ。選考委員会推薦詩集として次の3詩集が候補に追加された。
・尾久守侑『ASAPさみしくないよ』(思潮社)
・小縞山いう『リリ毛』(思潮社)
・永方佑樹『不在都市』(思潮社)
 第2次選考委員会は3月2日(土)
に早稲田奉仕園で開かれ、受賞詩集が決定した。(中本理事同席)


現代詩人賞 受賞のことば 齋藤 貢
「あの日」から

 第二次選考会の当日は、H氏賞の選考委員を務めていました。やや長引いたH氏賞の選考が無事に終了した後に向かった会議室の入り口のところで「現代詩人賞」受賞を理事の方から告げられたときは、正直なところ、驚くばかりでした。やがて、少しずつ受賞の実感はこみ上げてきましたが、それは嬉しさというよりも、むしろ大きな賞への責任の重さのようなものであったと思います。
 受賞が決まって、まず、脳裏に浮んだのは、わたしの恩師で英文学者、詩人の星野徹氏の在りし日の姿でした。大学に入学したばかりのわたしに、折口信夫を、柳田国男の民俗学を、そして、フレイザー卿の『金枝篇』を是非読みなさいと、わたしの詩を書く背中を前へ押してくれたからです。 
わたしの最初の詩集の跋文「∧宝島∨探し」でも、氏は、中原中也の『ランボウ詩集』の後記を引用し、中也が∧「生の原型」∨と名付けた∧物と名辞との、感覚と観念との、さらに客体と主体との全一的未分化の状態∨こそが、詩の∧宝島∨を探すヒントであり、それをぜひ追い求めなさいとわたしを励ましてくれました。神話的な原型の詩的再構築をめざす、わたしの「∧宝島∨探し」がここから始まりました。
 原発事故を考えるときも、現代文明の危機について、S・k・ランガーの言説を引用して述べた氏のことばがわたしの頭を離れませんでした。

  文化は感情の様式の表現であるが、これに対して 文明は文化を基盤として発達した生活の実用的な技 術である。したがって文化は土着的なものであるが、 文明は移植可能である。この移植可能な、したがっ て、画一的な文明が、土着的な、したがって個性的な文化を圧倒し破壊しつつあるところに現代的状況がある。  (「S・k・ランガーの文明論」より)

 実用的な技術にすぎない科学文明が、土着的でその土地に根付いた文化を破壊し引き剥がすという不条理。それは、原発事故に襲われて強制的にふるさとを追われた被災地の姿に重なります。高度な科学技術が、一瞬にして土地の文化や歴史を奪い去り破壊してしまう。原発事故の「あの日」から八年が経過しても、今なお、被災地は苦しめられています。その現実をわたしたちは今、どのようなことばで語ることができるのか。福島には、強制的に土地を奪われたまま住民が戻ることのできない「帰還困難区域」がまだ残されたままです。処分することもできずに、黒いフレコンバックに詰められたままの汚染土は、被災地の苦しみの暗喩そのものといってもよいかもしれません。
 そして、もう一人。前詩集『汝は、塵なれば』では栞の解説文を、この詩集『夕焼け売り』では帯文を書いてくださった粟津則雄氏には深く感謝を申し上げなければなりません。わたしが住むいわき市の「草野心平記念文学館」、その館長として粟津氏の存在がわたしの身近にあったことはわたしにとってこのうえもない大きなしあわせでありました。
 最後になりますが、日本現代詩人会の新藤凉子会長をはじめ、理事の皆様、選考委員の皆様、そして被災地のことばに共感を持って触れてくださった多くの皆様に、改めて深く感謝を申し上げます。有り難うございました。

[第37回現代詩賞]
 現代詩人賞の会員による投票の総数313票。有効票275票、白票30票、無効票8票。投票率29・9%。
上位8冊までの詩集は次の通り。
①冨長覚梁『闇の発光』(撃竹社)16票
②麻生直子『端境の海』(思潮社)15票
②北畑光男『合歓の花』(思潮社)15票
④新延 拳『虫を飼い慣らす男の告白』(思潮社)12票
⑤岡島弘子『洋裁師の恋』(思潮社)11票
⑤こたきこなみ『そして溶暗』
(思潮社)11票
⑦齋藤 貢『夕焼け売り』
(思潮社)9票
⑧沢田敏子『サ・ブ・ラ、此の岸で』
(編集工房ノア)8票

 以上8詩集を会員投票候補として理事会から選考委員会に申し送った。次点は7票の上手 宰『しおり紐のしまい方』(版木舎)、高橋次夫『石の懐』(土曜美術社出版販売)、長嶋南子『家があった』(空とぶキリン社)、山本泰生『あい火抄』(歩行社)であった。
 現代詩人賞の選考委員は、相沢正一郎、岡本勝人、小柳玲子、佐々木洋一、細野 豊、細見和之、若山紀子の各氏。
 第1次選考委員会で細野 豊氏を選考委員長に選んだ。選考委員会推薦詩集として次の3詩集が候補に追加された。
・長嶋南子『家があった』
(空とぶキリン社)
・上手 宰『しおり紐のしまい方』
(版木舎)
・松川紀代『夢の端っこ』(思潮社)
 第2次選考委員会は3月2日(土)に早稲田奉仕園で開かれ、受賞詩集が決定した。(秋理事長同席)

H氏賞と現代詩人賞の選考経過と選評は、冊子「現代詩 2019」で発表される。
  ◇
2019年度のH氏賞と現代詩人賞の選考に当たり、会員の皆様の投票ありがとうございました。ご協力に感謝いたします。来年度も積極的に投票して下さいますようお願いいたします。
(担当理事・中本道代)

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