研究活動・親睦

東日本ゼミ, 講演

現代詩ゼミナールの報告―根本 明(2023.1.28開催)

● 現代詩ゼミナールの報告――根本 明

開会の言葉 八木幹夫会長

司会進行 渡ひろこ氏 塚本敏雄氏

 1月28日(土)アルカディア市ヶ谷において3年ぶりに現代詩ゼミナールを開催できた。長いコロナ感染期間を経て会の集まりを心待ちにしていた方々が、快晴という天候にも恵まれて多数参加された。
 午後2時、5階「穂高」において塚本敏雄氏、渡ひろこ氏の司会で会は始まった。まず八木幹夫会長が「講演の松下育男さんは難解な現代詩ではなく人の心に入って来る詩を書かれる詩人。今日はZOOMで参加する全国の会員にも福をもたらすだろう」と挨拶。
 渡氏が講演者・松下育男氏を「1950年生まれ。外資系会社を退職後、横浜で詩の教室を開く。昨年、講義録『これから詩を読み、書くひとのための詩の教室』刊行。79年、詩集『肴』でH氏賞を受賞」と紹介。松下氏の1時間の講演「ライトバースの中心線」が始まった(講演要旨は後述)。
 熱の入った講演は明快で分かりやすく詩を書く者の共感を呼ぶものだった。
 休憩後、会員の朗読となり、寺田美由記氏が作品「天の命題」など批評的なユーモアをもつ詩を読んだ。
 草野早苗氏は作品「渡る」「村へ」など明晰な言葉運びによる透明な世界を披歴した。
 日原正彦氏は作品「足音」「若い銀杏」で「人類の季」を問い返し、希望を模索する詩想を展開した。
 花潜幸氏は作品「夏の句読点」「十二月の振る舞い」などを読んで、自然と照応して紡ぐ美的な世界を呈示。
 柳春玉氏は日本在住20余年の中国朝鮮族として東アジアに詩想を広げる詩人。作品「東京の灯」などを熱読した。
 宮田直哉氏は1991年まれと最も若く、形而上的抒情を模索する詩人。作品「夜の歌」などを詠んで個性的世界を開示した。
 バラエティに富んだ豊かな朗読だったが、地球的な気候変動やロシアによる侵略戦争などへの危機感や憤りが通底しているようにも思えた。
 最後に担当理事・根本が講演と朗読への謝辞を述べて閉会となった。
 会の遂行には協力会員として相原京子氏、やじままり氏、高細玄一氏、鹿又夏実氏、服部剛氏のご尽力を得た。YouTube用録画には光冨幾耶氏、初のZOOM配信を根本正午氏の手で実現できた。現在、当会HPで録画を公開。
    ※
松下育男氏講演
「ライトバースの中心線」(要旨)

講師 松下育男氏


 一人の詩人を読むことについてお話ししていくが、①詩を書き始めた頃のことを繰り返し思い出そう、②詩の裏側を見ること、この二点を思って読んでいきたい。
私は43年間一つの会社で働き、すべての能力を使い切った。退職して疲れ果てていた時に、誰に請われるでもなく詩の教室を始めることを思いついた。月1回の教室でこんなに話すことがあったのかと思うほど講義したいものが噴き出してきた。この40回分をまとめたのが講義録『これから詩を読み――』(思潮社)だ。話は教室のある朝に、思いもかけないことが浮かんでくる。計画的でないのは詩作と同じだ。
 今日の講演のタイトル「ライトバースの中心線」は昨年11月ごろに考えた。勤め人であった自分に、語るべきことは若い時に出会った詩への感動しかなく、その優れた一編の詩について語っていきたい。
 阿部恭久の詩について――以前ライトバースの詩人に「西に高階杞一、東に松下」と言われたが、私は中央に阿部さんがいると考えていた。戦後詩の「荒地」以来の意味の詩に対して、ライトバースは言葉も内容も軽やかな表現とされた。だが今の詩は「――詩」といった括りはうすれ、多様性があり、権威も上下もない。
 ライトバースは軽やかに喜びも苦しみも書く。書き手と読み手が過度にもたれかからない表現だ。
 阿部の作品を読んでいこう。彼は岐阜に住む歯医者だが、その詩には汚れといったものが一切ない。
 作品「最後の夏休み」(詩集『身も心も明日も軽く』より) 
 1連目「きみとバス停で別れ/木戸をあけて/帰ってきた/二階にあがるとき/海水をけってきた足裏を/木目のういた踏板が/一段一段うけとる」2連目で海に浮かんで遠くのきみの視線をさがし、3連目で別れて町にかくれたきみを思う、という作品。この詩には遠くまでの無限の広がりと清々しさ、足裏から伝わる初恋の切なさと、その人との未来を感じとれる。
 そしてこの詩の裏側には  人生の一瞬の輝きがあり、それはかけがえがなく大切にすべきものだとの思いがこめられている。阿部の詩はすべての人に生きてあることを思い出させ、分析的にではなく感動できるものだ。
 (続けて作品「ピッチャー」「二十世紀の思い出」「生きるよろこび」を提示、鑑賞して)
 阿部は詩作の前期には現代詩を全面的に愛し、後期には客観的に対していく。そして「生きるよろこび」が示すように出来るだけ言葉をそぎ落とし、俳句に近づいていく。

※朗読の皆様

寺田美由記氏

草野早苗氏

日原正彦氏

花潜幸氏

柳春玉氏

宮田直哉氏


2023現代詩ゼミナール出席者 
(敬称略)
会員―相原京子・秋本カズ子・秋亜綺羅・秋元炯・網谷厚子・新井啓子・岡島弘子・大久保栄里紗・長田典子・尾世川正明・小野ちとせ・金井雄二・上手宰・片岡伸・川崎芳枝・北畑光男・草野早苗・斎藤菜穂子・斎藤瑤子・佐川亜紀・沢村俊輔・鹿又夏実・鈴木正樹・関口隆雄・曽我貢誠・高山利三郎・髙橋嬉文・高細玄一・竹内美智代・田中裕子・田村雅之・塚本敏夫・椿美砂子・寺田美由記・中井ひさ子・中田紀子・新倉葉音・新延拳・布川鴇・根本明・根本正午・野木ともみ・野木京子・長谷川忍・浜江順子・花潜幸・原島里枝・春木節子・林新次・服部剛・日原正彦・光冨幾耶・宮崎亨・宮田直哉・望月苑巳・やじままり・山田一子・山田隆昭・八木幹夫・雪柳あうこ・吉田隶平・柳春玉・渡辺めぐみ・渡ひろこ
非会員―松下育男・生野毅・清水笹次・筒渕剛史・中村明美・野口やよい・星澄子・道ケージ・南田偵一・吉田裕子
 出席者74名(会員64名・非会員10名)

2023現代詩ゼミナール
 ZOOM出席者
会員―青木由弥子・阿部恭久・石川敬大・石下典子・一色真理・伊東芳博・岡崎よしゆき・来羅ゆら・恭仁涼子・草野理恵子・小篠真琴・佐々木貴子・坂田トヨ子・坂多瑩子・志田道子・柴田望・島秀生・田中啓一・谷口ちかえ・常松史朗・弟子丸博道・中地中・中尾一郎・長嶺幸子・中島悦子・西畠良平・楡久子・原かずみ・東浜実乃梨・福田恒昭・前田利夫・松尾如華・水谷有美・峯澤典子・山本純子
出席者41名(会員35名・非会員・講師関係者6名) (集計/中井ひさ子)

(写真撮影/服部剛・YouTube用録画/光冨幾耶・ZOOM配信/根本正午)

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