研究活動・親睦

東・西日本ゼミ、新年会

東日本ゼミナール・新年会開催2016

神山睦美氏「詩人 吉本隆明について」
平林敏彦氏「ぼくのセンチメンタル・ジャーニー」講演

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左・神山睦美氏 右・平林敏彦氏  

 

 1月16日(土)、早稲田奉仕園スコットホール(講堂)にて、東日本ゼミナール、および新年会が開催された。参加者は95名。天候にも恵まれ盛会となった。ゼミナールの進行役は山田隆昭、颯木あやこ、両氏が担当された。まず以倉絋平会長から会の運営には会員相互の親睦が大切なことがあげられ、与謝野晶子の絶筆となった九十首ばかりの歌や、芭蕉の詠んだ九百余句にみられる土地をことほぐ精神についての言及があった。今年は、神山睦美氏と平林敏彦氏の二本の講演と八名の詩人の朗読が組まれた。まず杉本真維子理事より神山睦美氏の紹介があった。神山氏の講演は「吉本隆明の詩と思想」。会場にはプリントが配られ吉本隆明の思想と死生観が丁寧に語られた。戦争体験を踏まえた戦後詩から復興と共に成熟してゆく「修辞的現在」。時代の変遷を吉本は否定したわけではなく修辞の先の可能性をみていたのだ。吉本が時代のメッセンジャーとして多くのファンを抱えるのはよく考えると同時によく読むことであろう。そこで得た結論。〈若い詩人たちの詩をまとめて読んでみて、ちょっと驚かされました。いってみれば、「過去もない、「未来」もない。では現在があるかというと、その現在も何といっていいか見当もつかない「無」なのです」。〉(吉本隆明『日本語のゆくえ』(光文社二〇〇八年)とほとんど全否定に近い。当然若い詩人から反論もあるが吉本の思索は小林秀雄、高村光太郎、本居宣長、カフカ ハンナ・アーレントといった先人達の思想と生き方に分け入っていくのだ。先人の思想と自身の思想の違い、先人の死生観と自身のそれの違いを発見していくのだ。吉本流の輪廻思想についてもう少し聞きたかったが、スリリングで丁寧な講演を堪能できた。第一部の詩の朗読は、カニエ・ナハ、水嶋きょうこ、福田拓也、田原、と若い詩人たちが登壇した。吉本論の後ということもあり未来に対する様々な思いがよぎった。
 途中休憩を挟み、後半は平林敏彦氏の講演「ぼくのセンチメンタル・ジャーニー」。浜江順子理事より平林氏の紹介があった。氏は登壇すると早稲田奉仕園のホールの教会様式から若き日の友人、キリストのような人物書肆ユリイカを起こした伊達得夫氏との思い出を語る。生きていくのも大変な戦後。出来ては潰れ、潰れては出来る出版業界にあって前田出版という零細出版社から身を起こし書肆ユリイカを立ちあげていく伊達得夫とその周辺を報告した。原口統三の「二十歳のエチュード」から始まり、稲垣端穂、那珂太郎、中村真一郎、谷川俊太郎、鮎川信夫、平林敏彦などなど。一九五〇年頃に平林は伊達と会っていた。二人の出会いには当時文学座の座員であった義弟が一役買っている。伊達の侠気をみるのは紙が余っているということで廉価で出してくれた平林敏彦詩集『廃墟』。家が近いことで親しくしていた金子光晴の計らいか出版記念会では金子の他壺井繁治、山之口漠、岩佐東一郎、近藤東、長江道太郎、山本太郎、滝口雅子といった面々が並ぶ。余程懐しい存在なのだろう。伊達の話で時間をとられさてこれから自身の話という処で講演時間が尽きた。貴重な来歴の報告であった。浦歌無子、宮崎亨、八木幹夫、財部鳥子と充実した朗読が続いた。閉会のことばはゼミ担当理事の浜江順子。ゼミナールは無事修了した。
 新年会は会場を敷地内のリバティホールに移し開催された。新延理事長による開会の言葉、清水茂氏らの挨拶、新藤凉子氏が乾盃の音頭をとり、花潜幸、春木節子の司会で、和やかな宴となった。閉会のことばは副理事長の田村雅之。(報告・斎藤正敏)

◆東日本ゼミナール会員出席者
(新年会含む・敬称略)
秋亜綺羅、麻生直子、天野英、安楽正子、以倉絋平、石川厚志、市川つた、一色真理、伊藤浩子、植村秋江、上村弘子、岡島弘子、岡野絵里子、小野ちとせ、小山田弘子、柏木勇一、神山睦美、川崎芳枝、菊田守、北川朱実、北畑光男、草野理恵子、熊沢加代子、黒岩隆、小島きみ子、こたきこなみ、斎藤正敏、桜井さざえ、塩野とみ子、重永雅子、清水茂、下川明、新藤凉子、杉本真維子、鈴木豊志夫、鈴木東海子・鈴木正樹、鈴木昌子、鈴木比佐雄、鈴切幸子、関中子、瀬崎祐、曽我貢誠、高田太郎、財部鳥子、竹内美智代、谷口ちかえ、谷口典子、田村雅之、常木みや子、寺田美由記、中島登、中地中、中原道夫、中本道代、なべくらますみ、新延拳、西野りーあ、布川鴇、萩原里美、花潜幸、浜江順子、林田悠史、原利代子、春木節子、平林敏彦、颯木あや子、福田拓也、藤井優子、藤本敦子、堀内みち子、水島きょうこ、光冨郁埜、南川隆雄、宮崎亨、宮地智子、八木幹夫、山田隆昭、吉田隶平、渡辺めぐみ

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