H氏賞と現代詩人会

今年度の各賞について

今年度の詩集賞決定(2017年3月4日)

北原千代

第67回H氏賞
北原千代『真珠川 Barroco』(思潮社)

[略歴]
一九五四年京都府生まれ。大津市に育ち、現在も同市に在住。同志社大学法学部卒業。二〇〇五年『ローカル列車を待ちながら』二〇〇七年『スピリトゥス』(いずれも土曜美術社出版販売)。二〇一一年『繭の家』(思潮社)。二〇一六年『真珠川 Barroco』で第六七回H氏賞。詩誌「ERA」「BLACKPAN」同人。個人誌「ばらいろ爪」。

中村稔

第35回現代詩人賞
中村 稔『言葉について』(青土社)

[略歴]
 一九五〇年 東京大学法学部卒業
  五五年 詩論『宮沢賢治』
  六七年 詩集『鵜原抄』
  七七年 詩集『羽虫の飛ぶ風景』
  八七年 中村稔詩集『一九四四―』
  九一年 評伝『束の間の幻影』
      詩集『浮泛漂蕩』
  九八年 日本藝術院会員
二〇〇四年 自伝『私の昭和史』
二〇一〇年 文化功労者
 その他、著書、役職多数

*授賞式は6月18日(日) 東京・飯田橋のホテルメトロポリタン・エドモントで開催されます。


受賞者の声

第67回H氏賞 北原千代氏

 [受賞のことば]
 このたびは、歴史あるH氏賞をいただくことになり、たいへん光栄に存じます。これまでお導き下さった皆様に、心から感謝申し上げます。
 詩を書きたい気持ちが募って、ともかく詩のようなものを書き始めたのは、五〇歳を目前にした頃でした。遅いスタートをした者にこのような賞をお与えいただくとは、にわかに信じがたいのですが、お世話になった皆様が、ご自身のことのように喜んで下さるのを目の当たりにし、そのことがとてもうれしくてなりません。
 わたしは、比叡山と比良山の山間の村落に育ち、中学校は分校でした。国語教師の園鈴子先生は、中学生を相手に、白秋の短歌や万葉集、源氏物語などの魅力を説いて下さいました。白秋の歌がとりわけ好きになり、「病める児はハモニカを吹き夜に入りぬ もろこし畑の黄なる月の出」などの歌を暗唱し、その色彩と音楽にうっとりとしました。当時、京都女子大の学生だった河野裕子さんが中学時代の恩師、園先生を訪ねて分校の教室に来られ、「きらきらする瞳をいつまでも持ち続けて」と、後日お手紙を下さったことが今でも忘れられません。
 学生時代のほんの数年ほど、同人誌活動に参加しましたが、その後は長い休眠状態が続きました。第三詩集『繭の家』を編むにあたって、見慣れた車窓の風景から、幻想の森に入っていくようなイメージの着想を得ました。今回の受賞作『真珠川 Barroco』では、前作で得た感覚が、わたしの故郷の風景とそこで出会った人々の記憶へと移り変わりました。真珠川は架空の川ですが、わたしが身に帯びるまで知っている、村はずれの小川でもあります。
 若い頃、因習に縛られた土地を離れたいとばかり願っていましたが、実はこの土地や家は、わたしが望んで得たものではなく、始めから神様が与えて下さっていたもので、今も日々育まれているのだということが、少しずつわかってきました。
 遅い出発をした者を、ここまでお導き下さり、ほんとうにありがとうございました。今後の歩みもまた手探りですが、心を柔らかくし、書き続けていきたいと願っております。

第35回現代詩人賞 中村 稔氏
 
[受賞のことば]
 たいへん意外でした。うれしく有難く存じます。

第67回H氏賞候補詩集

〔第67回H氏賞選考〕
 締切り時点の会員数は1056名で、H氏賞の投票者は290名。有効票247票 白票41票 無効票2票。投票率27.5%。集計後同会場でそれぞれの第1回選考会が開かれた。
 H氏賞の会員投票による上位8冊までの詩集は次の通り。
①草野理恵子『黄色の木馬/レタス』(土曜美術社出版販売)16票
②坂多螢子『こんなもん』(生き事書店)11票
③塩嵜 緑『そらのは』(ふらんす堂)10票
④為平 澪『肓目』(土曜美術社出版販売)9票
⑤北原千代『真珠川 Barroco』(思潮社)8票
⑥下地ヒロユキ『読みづらい文字』(コールサック社)7票
⑦林美佐子『発車メロディ』(詩遊社)6票
⑦大城さよみ『死の蔭にて』(本多企画)6票

 以上8詩集を会員投票候補として理事会から選考委員会に申し送った。次点は5票で、伊藤浩子『未知への逸脱のために』(思潮社)、大木潤子『石の花』(思潮社)、神尾加代子『鬼のくる夜』(歩行社)、冨岡悦子『ベルリン詩篇』(思潮社)、和田まさ子『かつて孤独だったかは知らない』(思潮社)であった。
 選考委員は杉本真維子、浜江順子(以上理事)岩佐なを、高柳誠、水野るり子、峯澤典子、八木忠栄の各氏。第1回委員会で、八木忠栄氏を選考委員長に。選考委員会推薦詩集として次の2詩集が追加された。
・和田まさ子『かつて孤独だったかは知らない』(思潮社)
・野崎有以『長崎まで』(思潮社)
 第2回選考委員会は3月4日(土)に早稲田奉仕園で開かれ、受賞詩集が決定した。(秋理事同席)
 選考経過と選評は、冊子「2017現代詩」で発表される。


 

第35回現代詩人賞候補詩集

〔第35回現代詩人賞選考〕
 現代詩人賞の会員による投票の上位8位までの詩集は次の通り。投票総数278票 有効票238票 白票38票 無効票2票 投票率26.3%
①川中子義勝『魚の影 鳥の影』(土曜美術社出版販売)17票
②岡 隆夫『馬ぁ出せぃ』(砂子屋書房)12票
②柏木勇一『ことづて』(思潮社)12票
②草野信子『その日まで』(ジャンクション・ハーベスト)12票
⑤小松弘愛『眼のない手を合わせて』(花神社)10票
⑥大橋政人『まどさんへの質問』(思潮社)9票
⑦井川博年『夢去りぬ』(思潮社)8票
⑦瀬崎 祐『片耳の、芒』(思潮社)8票
⑦浜江順子『密室の惑星へ』(思潮社)8票
⑦原田道子『かわゆげなるもの』(思潮社)8票

 以上8位以内の10詩集を会員投票候補として理事会から選考委員会に申し送った。次点はいずれも7票で、禿慶子『しゃぼん玉の時間』(砂子屋書房)、白井知子『漂う雌型』(思潮社)、田村雅之『碓氷』(砂子屋書房)の3詩集だった。
 現代詩人会の選考委員は、岡島弘子、鈴木豊志夫(以上理事)安藤元雄、川島完、倉橋健一、新藤涼子、時里二郎。
 第1回の選考委員会で、倉橋健一氏が選考委員長に。選考委員会推薦詩集として、次の1詩集が追加された。
・中村 稔『言葉について』(青土社)
 第2回選考委員会は、H氏賞選考委員会と同じ3月4日(土)に開かれ、受賞詩集が決定した。(新延理事長同席)
 選考経過と選評は、冊子「2017現代詩」で発表される。
   ◇
 2017年度のH氏賞と現代詩人賞の選考に当たり、会員の皆様の投票ありがとうございます。御協力に感謝しております。来年度も積極的に投票されることを期待しております。
(担当理事・秋亜綺羅)


H氏賞選考委員

選考委員長・八木忠栄 

岩佐なを 高柳誠 水野るり子 峯澤典子 杉本真維子 浜江順子

現代詩人賞選考委員

選考委員長・倉橋健一 

安藤元雄 川島完 新藤凉子 時里二郎 岡島弘子 鈴木豊志夫


 

2016度の詩集賞決定(2016年3月5日)

森本孝徳

第66回H氏賞
森本孝徳『零余子回報』(思潮社)

[略歴]

 一九八一年神奈川県生まれ。東京都府中市在住。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業。卒論は古井由吉。二〇一二年から詩作をはじめ、月に一篇のペースで「現代詩手帖」へ投稿。翌年、第五一回現代詩手帖賞受賞。同誌ほか「子午線」等各種媒体に発表した詩篇を纏め、二〇一五年に第一詩集『零余子回報』を思潮社より上梓。詩誌「Iyttoral」を不定期に刊行している。

尾花仙朔

第34回現代詩人賞
尾花仙朔『晩鐘』(思潮社)

[略歴]
 一九二七年生まれ。宮城県七ヶ浜町出身。仙台市在住。旧制札幌商業学校卒業。一九五八年版「荒地詩集」に参加。現在詩誌「午前」同人。詩集『縮図』(第25回晩翠賞)、『おくのほそ道句景詩鈔』(宮城県芸術選奨)、『黄泉草子形見祭文』(第23回地球賞)、『有明まで』(第38回日本詩人クラブ賞)、『春靈』、日本現代詩文庫「尾花仙朔詩集」(土曜美術社出版販売)、現代詩文庫「尾花仙朔詩集」(思潮社)。

*授賞式は6月12日(日) 東京・飯田橋のホテルメトロポリタン・エドモントで開催されます。


受賞者の声

第66回H氏賞 森本孝徳氏

 

[受賞のことば]記憶に残らない 森本孝徳
 直截にいえば、僕は詩が好きではない。詩を書くことへの一般の欲求がいかなるものかを知らぬし、例の「書かないではいられぬ」文学的な責めも絶無と言える。これは正確な口回しではない。換言すれば、僕は「書きたいもの」を書く傲岸に耐えられないのだ。たとえ「表現」の機制を埒外に置こうが、言語の「物質性」を口にしようが、私の「書きたいもの」をただ書いている限りは、言葉という実在の不透明さを触知することもなしに、私は平気で詩に取り返しをつけてしまえるのではないか、そんな疑いが晴れない。詩の言葉はそれこそ平気で私を裏切るだろう。これも言うに及ばぬ、底の知れた紋切型の箴言ではある。
 小説家の保坂和志がこう書いていた。《いわゆる〈良い―悪い〉という完成度はまったく眼中にない、「行った!」とか「やった!」が私の小説の尺度だ》。屈託なげな評価軸だが、私の「書きたいもの」を書く試行や遊戯、それに伴うささやかな=けちな達成、そうしたものへの楽観的な叛意がここには見える。私が「やりたいことをやる」など、専ら予定調和な結末にしか往きつかない。ならば手仕事の盲目性と、それがもたらす発見の予見不可能に僕は賭けたい。むろんこの「盲目性」を「難読字」に集約してしまえば、僕の目はひとえに死ぬばかりだ。いまは健康のことを考えたいよ。
 「H氏賞」の文字列を最初に視認したのは、現代詩文庫『続・鈴木志郎康詩集』の裏表紙に刷られた著者略歴のなかだったと思う。あの「プアプア詩」が載った同文庫の正篇には、著者が上半身裸で歩み寄る、言わずと知れたやや異様な近影が使用されているが、それゆえにか「H氏」の文字はどこか妙竹林な、いわば猥褻なものとして以後頭に残った。これに意味はない。大雨の日にだけバス通学をしていた高校生の僕は、土砂降りの神奈中のなかで著者の「終電車の風景」を読んだ。僕はこの《終電車》の人たちのように黙りたかった。黙りこくりたかった。充実した「沈黙」ではなく虚ろにただ黙り、紙を《けったり押したり》して文―字が作れればそれでよかった。ただ《こんな眺めはいいなァ》とは他人に絶対に言わせたくなかった。それだけだ。
 

第34回現代詩人賞 尾花仙朔氏
 
[受賞のことば]詩を書く磁場に立って 尾花仙朔
 人類の大きな相剋が無くなり、現代より増しな世界であるためには、世界共和国の樹立以外にないと私は考えます。が、決して権力を手放そうとしない国家権力者の世界歴史上の所業をみれば、その希求は夢の亦夢と知りながら、祈りを籠めて詩を書いている、そんな自分が滑稽にも思えます。けれど、祈りは生きるよすが、一筋の命の蜘蛛の糸、一縷の望みなのです。
 二十一世紀初頭の世界は、紛争とテロルと核の脅威で混迷を深めるばかりです。その遠因がアメリカの十字軍になぞらえたイラク侵略戦争にあることは既に通説ですが、その背景にあるのは、国民を衆愚と侮る各国家権力者の衆愚政治です。詩芸術(文学)に政治は持ち込むべきではないとするならば、それ故にこそ、詩と国家権力とは対極の磁場に在るという理念は、詩創造の意識閾に通底し顕在してあるべきものと私は考えます。その意味で、このたび私が上梓しました詩集に実に多数の方々から共感と激励の御書翰を賜りましたことに一種の安堵感を覚えました。と同時に、詩人高村光太郎の悲痛な生涯がひとしお思い浮かんでなりませんでした。第二次大戦中の高村光太郎が、国家体制の下に、あまりにも純粋で、高潔そして誠実な人柄であったがゆえに、当時の主要な詩人を束ねて衆愚に与してしまった自責の念ゆえか、戦後日本芸術院会員への推薦を固辞したというその痛々しい心情への思いが浮かんで消えなかったのです。そして時を経た三月五日、受賞のお知らせを受けました。このことは第一に、私の詩集を候補として投票して下さった方々の賜物と深謝申し上げます。亦更に、多冊の優れた候補詩集のうちから、私がこのたび詩集を編んだ《あとがき》に記述した意を読み解いて下さり、受賞作とさだめて戴いたことについて、選考委員の方々に敬意と感謝の思いをささげます。今後とも奢ることなく、老耄の身をよろめきながら尚詩業の道程を精進して参りたいと存じます。有難うございました。

第66回H氏賞候補詩集

詩集賞決定までの経緯
[開票理事会]
 H氏賞と現代詩人賞の会員投票を受け、2月6日(土)、早稲田奉仕園で開票理事会を開き、定例の議題審議の後、投票管理者の会員 新井啓子、曽我貢誠両氏の立会いで開票と集計が行われた。締切り時点の会員数は1050名で、投票者は314名 有効票260票 白票数51票 無効票3票 投票率29.9%。集計後同会場でそれぞれの第1回選考委員会が開かれた。

[第66回H氏賞選考]
 会員による上位8冊までの詩集は次の通り。
①花潜幸『初めの頃であれば』(土曜 美術社出版販売)21票
②青柳俊哉『隔絶する蒼穹』(歩行社 )15票
③井上瑞貴『星々の冷却』(書肆侃侃 房)12票
④田中裕子『カナリア屋』(土曜美術 社出版販売)10票
⑤宇佐美孝二『森が棲む男』(書肆山 田)9票
⑥布川鴇『沈む永遠 始まりにむかって』(思潮社)8票
⑥長谷川忍『女坂まで』(土曜美術社出版販売)8票
⑧颯木あやこ『七番目の鉱石』(思潮 社)8票
 以上8詩集を会員投票候補として理事会から選考委員会に申し送った。次点は6票で、金井雄二『朝起きてぼくは』(思潮社)であった。
 選考委員は中本道代、宮崎亨(以上理事)、相沢正一郎、金堀則夫、郷原宏、高貝弘也、春木節子の各氏。
 第1回委員会で郷原宏氏を選考委員長に互選。選考委員会推薦詩集として、次の3詩集が追加された。
・平田詩織『歌う人』(思潮社)
・佐藤存『対岸へと』(思潮社)
・森本孝徳『零余子回報』(思潮社)
 第2回選考委員会は3月5日(土)に早稲田奉仕園で開かれ、受賞詩集が決定した。(新延理事長同席)
 選考経過と選評は、冊子「2016現代詩」で発表される。

第34回現代詩人賞候補詩集

[第34回現代詩人賞選考]
 会員による上位8位までの詩集は次の通り。投票総数345票 有効票306票 白票数26票 無効票3票 投票率32.9%
①尾花仙朔『晩鐘』(思潮社)32票
②新延拳『我が流刑地に』(思潮社)
 18票
③丸地守『微笑む星はまだ残っているか』(土曜美術社出版販売)15票
④宇佐美孝二『森が棲む男』(書肆山田)14票
⑤財部鳥子『氷菓とカンタータ』(書肆山田)13票
⑥八木幹夫『川、海、魚等に関する個人的な省察』(砂子屋書房)11票
⑦金井雄二『朝起きてぼくは』(思潮社)9票
⑧佐久間隆史『あるはずの滝』(土曜美術社出版販売)8票
⑧布川鴇『沈む永遠 始まりにむかって』(思潮社)8票
 以上8位以内9詩集を会員投票候補として理事会から選考委員会に申し送った。次点はいずれも7票で、岩佐なを『パンを』(思潮社)、清水茂『夕暮れの虹』(舷燈社)、鈴木東海子『桜まいり』(書肆山田)の3詩集だった。
 現代詩人賞の選考委員は、北畑光男、斎藤正敏(以上理事)、井坂洋子、川中子義勝、季村敏夫、佐々木久春、鈴木漠の各氏。
 第1回選考委員会で川中子義勝氏を選考委員長に互選。選考委員会推薦詩集として次の3詩集が追加された。
・田中清光『ことばから根源へ』(思潮社)
・岬多可子『飛びたたせなかったほうの蝶々』(書肆山田)
・清岳こう『九十九風』(思潮社)
 第2回選考委員会は、H氏賞選考委員会と同じ3月5日(土)に開かれ、受賞詩集が決定した。(田村副理事長、秋担当理事同席)。
 選考経過と選評は、冊子「2016現代詩」で発表される。
   ◇
 2016年度のH氏賞と現代詩人賞の選考に当たり、会員の皆様の投票ありがとうございます。ご協力に感謝しております。今年度は前年度より投票数が減少してしまいました。次回は多数の会員が積極的に投票されることを期待しております。
      (担当理事・秋亜綺羅)


H氏賞選考委員

選考委員長・廿楽順治 

麻生直子 砂川公子 瀬崎祐 苗村吉昭 布川鴇 渡会やよひ

 

現代詩人賞選考委員

選考委員長・八木幹夫

鈴木比佐雄 高階紀一 中谷順子 丸山由美子 水田宗子 山田隆昭

 

2015度の詩集賞決定(2015年3月7日)

第65 回H氏賞
岡本啓『グラフィティ』(思潮社)

[略歴]

  1983年生まれ。京都市在住。13歳までを仙台で、それ以降を東京で暮らす。2012年秋からの1年半、宇宙物理学を研究する妻に連れ添い渡米。ワシントンDCでの滞在中に『現代詩手帖』へ毎月一篇ずつ投稿した詩で、2014年、第52回現代詩手帖賞受賞。

  帰国後、投稿した詩をまとめ、第一詩集『グラフィティ』を思潮社より上梓。2015年、同詩集にて第20回中原中也賞、第65回H氏賞受賞。 

第33 回現代詩人賞
八木忠栄『雪、おんおん』(思潮社)

[略歴]
  1941年新潟県見附市生まれ。日本大学芸術学部文芸科卒業。思潮社で「現代詩手帖」編集長、詩書出版に17年間従事。その後、西武百貨店スタジオ200、銀座セゾン劇場、セゾン文化財団などに勤務。詩集『きんにくの唄』『八木忠栄詩集』『こがらしの胴』『雲の縁側』他、句集『雪やまず』『身体論』、落語論『ぼくの落語ある記』『落語新時代』他。「余白句会」「かいぶつ句会」他に所属。個人誌「いちばん寒い場所」。船橋市在住。

*授賞式は6月7日(日) 東京・飯田橋のホテルメトロポリタン・エドモントで開催されました。


受賞者の声

第65回H氏賞 岡本啓氏

 

[受賞のことば]書くことで自分が変わっていく 岡本啓
 H氏賞は私が初めて知った詩の賞です。詩を書きはじめたのが27歳の終わり。詩に興味を持つきっかけとなった詩集に、白石かずこ『聖なる淫者の季節』があります。1971年第21回H氏賞受賞作。御茶ノ水の古書店で見つけた正方形の本。この大胆な絵巻物、言葉のはばたきといってもいいような力強さは何だろうと思いました。おまえはこの地上にどう生きるのか、ページからそんな問いが聞こえました。また、その迫力のある声の主へ、自分は到底近づけないとも思いました。そしてH氏という謎めいた響き、重い空とビルの狭間、顔のない男がふっと角で消える。賞の名前からそんなイメージが湧いたのを覚えています。
 それからまもなく『現代詩手帖』に投稿をはじめました。投稿をしながら、選者の方々のコメントと、投稿されている方々の詩に目をこらしてきました。そう詩を書きはじめて数年、まだ未熟だからこそ分かることがあります。それは、書くことでまさに自分自身が変わっていく、そんな感覚です。詩を書こうとする、すると肌の感じる空気が変わります。鼻腔をひろげ眼をこらす。光量の変化、街のにおい、人々の会話まで、生き生きと飛び込んできます。詩によって日々のささいなことにまで意識がわたる。言葉がからだを通って、大気に触れたがっている。その声をすかさずメモする。ほとんど何かに導かれたかのように。
 今回、思いがけず大変ありがたい賞をいただき、幸福な詩集にしていただきました。ただ『聖なる淫者の季節』見渡しても、太陽のようなあの一冊まではまだずっと遠い。ですが私も詩を書きはじめました。そして詩を書き続けたい。次の一篇に、全霊をこめる。萎れ、また繁殖していく草の先を手で触れるように。するといつかあの季節の茂みを歩いていけるのではないか。
そんな期待を胸に抱いて書き続けます。

第33回現代詩人賞 八木忠栄氏
 
[受賞のことば]いろんなことが…… 八木忠栄
 電話が鳴った。北畑理事長からだ。「受賞おめでとうございます」エエッ!!! まさか。拙詩集も「現代詩人賞」の候補になっていて、その日の午後に選考会があることは知っていた。「選考委員のみなさまに、ありがとうございましたとお伝えください」と言って、電話を切った。
 うれしい。ありがたい。光栄です。そんな気持ちのあとから「いろんなことがあるもんだなあ」という感慨が、今さらのように他人事のようにわいてきた。『雲の縁側』を束ねてから、十年が経った。今度の詩集の覚書に「十年の間に大きな出来事がいくつか、世間にもわが身にも発生した」と書いたが、そのことも含めて「いろんなことが……」と感慨一入である。
  十代の頃から詩を書きつづけてきて半世紀以上、それこそわが凡々たる人生にも、いろんなことが……などと呑気にかまえているけれど、オイ、まだ、そんなところをうろつき、ほっつき歩いているのかよ、という声が、自分のどこかから耳鳴りのようにうるさく聴こえてくる。
  私はずっと、お行儀の悪い詩にわが身を置いてきたようである。ときに列をはみ出したり、ときに地べたに寝転んだり、手づかみで御馳走を食べたり。もちろん言葉の上でのことである。オツに澄ますことなど、言葉の上でも生活の中でも苦手である。そしてようやく余計な力が抜けてきたかなあとは思う。受賞は褒美というよりも、今後への奨励だと受けとめている。
  私は言葉に対する冒を重ねてきたのかもしれない。詩はいろんな意味で、言葉を締めあげる行為ではないか。立川談志が言った「落語は人間の業の肯定である」とは至言である。落語と詩は別物だけれど、詩も「人間の業」を避けて通れない。人生も詩も、私に言わせれば「いろんなことがあるもんだなあ」ゆえに、詩も「人間の業の肯定」に行き着くのかもしれない。自分の詩を振り返って、そうも言えそうである。
 

第65回H氏賞候補詩集

石下典子『うつつみ』(歩行社)
渡辺めぐみ『ルオーのキリストの涙まで』(思潮社)
秋亜綺羅『ひよこの空想力飛行ゲーム』(思潮社)
小野ちとせ『記憶の螺旋』(土曜美術社出版販売)
草野理恵子『パリンプセプト』(土曜美術社出版販売)
野田新五『月虹』(洪水企画)
広瀬弓『みずめの水玉』(思潮社)
峯尾博子『交信』(書肆山田)
相野優子『ぴかぴかにかたづいた台所になど』(ふらんす堂)
和田まさ子『なりたいわたし』(思潮社)

第33回現代詩人賞候補詩集

長嶋南子『はじめに闇があった』(思潮社)
長津功三良『影舞い』(歩行社)
原子修『原郷創造』(共同文化社)
柴田三吉『角度』(ジャンクション・ハーベスト)
中原道夫『石の言葉』(土曜美術社出版販売 )
御庄博実『燕の歌』(和光出版)
若松丈太郎『わが大地よ、ああ』(土曜美術社出版販売)
赤木三郎『よごとよるのたび』(書肆夢ゝ)
佐々木朝子『地の記憶』(樹海社)
結城文『夢の鎌』(土曜美術社出版販売)


H氏賞選考委員

選考委員長・廿楽順治 

麻生直子 砂川公子 瀬崎祐 苗村吉昭 布川鴇 渡会やよひ

 

現代詩人賞選考委員

選考委員長・八木幹夫

鈴木比佐雄 高階紀一 中谷順子 丸山由美子 水田宗子 山田隆昭

 

 

 

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